教えて!けいゆう先生
授業中のトイレは恥ずかしい?
便意を我慢してはいけない理由(外科医・山本健人)
私が小学生の頃、学校で最も気まずかったのは、授業中に手を上げてトイレに行きたいと先生に告げることでした。こう書くと「何を大げさな」と思うかもしれませんが、冗談でも何でもありません。
学校のトイレで排便することは、私を含め多くの子どもにとっては一種の苦行だったのではないでしょうか。公衆の面前で「トイレに行きたい」と報告すること自体とても恥ずかしいことですし、後からクラスメートにからかわれることもあります。
おなかの弱かった私は、授業中にトイレに行きたくなることが多い方でした。便意を催してもギリギリまで何とか我慢していた記憶もあります。
しかし、医師になって思うのは、定期的な排便は体にとって非常に大切なことで、便意の我慢はむしろ医学的に危険とも言える、ということです。
便意を我慢してはいけない
◇学校でトイレに行くのは恥ずかしい
排便というのは、人間が生きていく上で必要不可欠な行為です。消化器の手術を専門とする私にとっては特に、定期的な排便は健全な消化管機能の証しです。実際、長い間便通が途絶えたことがきっかけで、大腸に大きな病気が見つかる患者さんも多くいます。
しかし、子どもにとっては、なぜか排便行為は気恥ずかしいものです。学校で排便をすると友達にばかにされるからといって、なるべく家でしか排便しない子もいます。
そして、こうした子どもの苦しみを理解してくれる学校の先生も、多くはないように思います。おなかが弱くて同じ苦労を味わった経験のある先生以外には、このつらさは伝わりづらいかもしれません。
◇便を我慢するのは危険
「便意があるのに排便しない」という行為を繰り返すことは、医学的には危険です。
直腸には、便が降りてくると便意を催すセンサーの機能があります。この鋭敏なセンサーのおかげで、私たちはおなかの中にたまった便を定期的に排出できます。
このセンサーの指令に従わずに、ひたすら便を我慢すると、徐々にセンサーが鈍感になっていきます。直腸に便がたまっているにもかかわらず、適切に便意を伝えることができなくなり、そのうち便秘症になってしまうのです。この状態を、「直腸性便秘」と呼びます。
実際、こうした原因で頑固な便秘に悩まされている患者さんは少なくありません。
◇知識を身につけてほしい
子どもたちに「排便は恥ずかしいことではない」と伝えても、かえって恥じらいの気持ちは高まるだけでしょう。それよりは、「便意を我慢すると便秘のリスクがあって危険だ」という医学的な知識を、ぜひ子どもたちに身につけていただきたいと思っています。
学校で排便をすることをからかう子には特に、腸の健康の大切さをぜひ知っていただきたいものです。(了)
著者(山本健人氏)プロフィル
著者プロフィル
2010年、京都大学医学部卒業。複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程、消化管外科。Yahoo!ニュース個人オーサー。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設2年で800万PV超を記録。全国各地でボランティア講演なども精力的に行っている。
外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。著書に『医者が教える正しい病院のかかり方(幻冬舎)』など多数。当サイト連載『教えて!けいゆう先生』をもとに大幅加筆・再編集した新著『患者の心得ー高齢者とその家族が病院に行く前に知っておくこと(時事通信社)』は2020年10月下旬発売。
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私はこれまで、間違った情報にだまされ、医学的根拠の乏しい治療に傾倒し、目の前から去って行った多くの患者さんたちを見てきました。私が日々の診療で痛感するのは、「診察室の中だけでは彼らを助けることはできない」ということです。さまざまなテレビ番組、書籍、そして何よりインターネット。患者さんたちは、病院の外で膨大な量の間違った医療情報に暴露されているからです。
私たち医師は、病院に来ない人を助けることはできません。しかしインターネットを使って正しい医療情報を多くの人に届けることができれば、状況は変わるかもしれない。
時事メディカルは、医学的根拠に基づいた、正しく信頼性の高い情報を日々みなさんに提供しています。私は一介の医師の立場から、皆さんのお役に立てる情報を届けることで、その一翼を担いたいと考えています。(山本健人)
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(2020/10/21 06:00)