一般病院の赤字割合が拡大
~療養型病院と精神科病院では縮小~
2019年度病院の経営状況分析 独立行政法人福祉医療機構 経営サポートセンター リサーチグループリサーチチーム 調査員 内記 恵和
図表6 療養型病院の在院日数の推移
3 収益性指標
前節と同じサンプルで2カ年の収益性を比較すると、一般病院における1床当たり医業収益は前年度比67万3000円増加の2239万6000円となったものの、医業費用の増加額がこれを上回った(図表10、6㌻)。そのため増収減益となり、医業利益率は前年度から0.4㌽低下し1.5%となった。費用の構成比について見ると、医業収益対人件費率(以下、人件費率)は横ばいとなった一方で、医業収益対医療材料費率(以下、医療材料費率)は0.6㌽上昇していた。医療材料費率の上昇の一因として消費税増税に伴う買いだめのほか、一般病院では1施設当たりの年間手術件数が19年度は前年度比で1.9%増加したことから、手術件数の増加に伴う高額な医薬品や医療材料の使用量増加などが考えられる。
図表7精神科病院の在院日数の推移
療養型病院では、病床構成において入院単価が低い介護療養型医療施設の割合が縮小したこともあり、1床当たり医業収益は増加していた。費用面では医業収益対経費率(以下、経費率)が若干上昇したものの、医業利益率は0.3㌽上昇し6.4%となった。
精神科病院は、医業利益率の低下幅が最も大きかった。入院単価は微増していたものの、病床利用率が低下したため1床当たり医業収益の増加が小幅となった。費用面では人件費率が0.2㌽、経費率が0.6㌽上昇したことから医業利益率は0.9㌽低下し1.9%となった。
おわりに
図表8 病院類型別病床利用率の推移
本稿執筆時点においても、新型コロナウイルス感染症による影響はいまだに続いている。この状況の中で医療現場において日夜奮闘している方々には頭の下がる思いである。コロナ禍においては医療従事者の勤務環境改善の重要性が増しており、引き続き推進していく必要がある。
19年度の病院の経営状況において、病床利用率や外来患者数に大きな変化がなかったことから、新型コロナウイルス感染症の影響は限定的であったとみられるが、20年度は前年度と比べ医業収益が1割以上減少すると見込む一般病院が半数を超えている⑸。
実際に、社会保険診療報酬支払基金の「年度統計」において、令和2(20)年度の医科診療全体のレセプト件数は前年度比で約13.0%減っている⑹ことなどから患者数が減少している状況が見られる。今後は安全面を確保した上で、地域の病院や診療所、介護施設等が従前よりも連携して患者の確保に取り組むなど、さらに踏み込んだ地域連携も必要となってくるかもしれない。
図表9 2か年度同一病院比較 病院の機能性 病院類型別(平均)
働き手については、労働力人口の減少による採用難が進むとともに、コロナ禍においては看護学校等の休校や実習の中止により臨床経験が不十分な学生が増加するといった影響も考えられる。
厚生労働省の通知⑺では病院実習ができない場合は学内の演習に代えてもよいとされているものの、臨床の練度が病院の求める水準に達していなければ、例年よりも採用後の教育に係る時間や内容を増やす必要が生じる。
こうした対応を含め、コロナ禍により今までにない負担が生じていると推察されることから、医療従事者の勤務環境改善が必要となっている。そのため、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)等の活用による人手不足解消や事務的作業のタスクシフトによって、職員の負担軽減に資する取り組みの重要性がさらに増していくと考えられる。
本稿を今後の病院経営を考える上での参考にしていただければ幸いである。
図表10 2か年度同一病院比較 病院の収支状況 病院類型別(平均)
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⑴一般病院:全病床に占める一般病床の割合が50%超の病院、療養型病院:全病床に占める療養病床の割合が50%超の病院、精神科病院:全病床に占める精神病床の割合が80%以上の病院
⑵開設後1年未満の病院、医育機関付属病院および医師会立病院を除く
⑶機構の病院に対する貸付の対象には国関係・地方公共団体等は含まれない
⑷経常利益が0円未満を赤字とした。なお、2015年度までに公表したレポートは収益率(1─(総費用÷総収益))が0未満のものを赤字としている
⑸新型コロナウイルス感染症の影響等に関する特別調査結果(2021年3月調査)
⑹社会保険診療報酬支払基金「年度統計」
⑺新型コロナウイルス感染症の発生に伴う医療関係職種等の各学校、養成所及び養成施設等の対応について(令和2年2月28日付 文部科学省・厚生労働省事務連絡)
(時事通信社「厚生福祉」2021年7月16日号より転載)
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(2021/08/11 05:00)
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