ハヤミミDr.純子のメディカルサロン

バカモノ!暴言乱発、君臨する老経営者
~パターナリズムの企業で働く人の対策~ 【男性のストレス・女性のストレス】その5

 少人数の従業員の企業の場合、コミュニケーションがよく風通しのいい場合は、家族的でとてもいい関係が構築できるのですが、その反対の場合、特にコミュニケーションに問題がある高齢の経営者が引退せずに院政のような状態になっていると、従業員のストレスが問題になることがあります。今回は、中小企業に見るパターナリズムストレスについて考えます。

(文 海原純子)

人気映画シリーズ「男はつらいよ」に登場するタコ社長の朝日印刷所。小規模経営の典型として描かれていた(2012年12月、葛飾柴又寅さん記念館で)

 「自分が正しい」の一点張り

 相談ケース:Aさん 30代 男性

 食品を扱う従業員10人の企業に勤務し、主任をしています。創業者は70代後半、今は息子が後を継ぎ社長をしていますが、実際には、会長が経営のすべてを握っており誰も逆らえず、社長もやりにくくて困っています。

 広報や営業の仕方で自分のこれまでの成功体験と経験をそのまま継続しようとして、周囲とぶつかることが多く、困惑しているのです。今の時代、その方法は通用しなくなっています。自分のミスは全く気が付かず、周りが修正していることにも気が付きません。従業員全員がこれは変だ、と思うことを平気でしても、「自分が正しい」の一点張り。逆に「お前たちが常識がない」と聞いてくれません。社長も困っているのですが、どうしようもないといいます。その上、自分の方針と異なると、いきなり感情が爆発して、「バカモノ!」「バカも休み休み言え!」と怒鳴ったり、メールが送られてきます。夜の12時近くに電話が鳴ることもあり、不眠が続いています。

 会社を辞めたいのですが、すぐに就職するのも難しいので我慢しています。それまで身体が持つか心配になっていると言います。

医師と患者のインフォームドコンセントの問題は、刑事事件に発展することも。入院中の男性患者に筋弛緩剤を投与した「安楽死」事件で、捜索を受ける診療所( 1998年11月、横浜市港北区)

 ◇パターナリズム支配のストレス

 パターナリズムとは、強い立場にある者が弱い立場にある者に対して、本人の意思を聞かずに介入したり、干渉したり、支援したりすることをいいます。日本では家父長制、父権主義などとも呼ばれます。

 かつて医師と患者の関係は、家父長制でした。治療方針に対し、患者が自分の希望を伝えて相談しながら決めるようなことは、できない状態でした。今は治療方針の決定は、患者と医師のコミュニケーションが不可欠とされています。このように変化が起きたのはそう遠い昔のことではないのです。物事をこのように支配的な形で決めることや、上の者に従順に従うことでこれまで進んできた企業が、いまだに存在するのは事実です。


 ◇個人としての対策

 1 気持ちを分かち合える人と場所は不可欠

 理解してもらえない相手と話すことほど、時間とエネルギーが無駄なことはありません。また、その時間のために必要な業務ができないというストレスが生じ、二重の負担感が起こります。こうした気持ちを話したり、分かち合える人をつくってください。客観的にきちんと受け止めてくれる友達に、状況を伝えることは、気持ちをすっきりさせてくれるはずです。

 2  深呼吸やストレッチなど身体を守る時間は不可欠

 暴言を吐く人と対峙(たいじ)していると、身体がこわばります。呼吸が浅くなり、交感神経の緊張状態が続きます。暴言を聞きながらでも、相手の感情に巻き込まれないために、自分の呼吸に注目してください。自分はしっかり深呼吸をして身を守る、と注目します。鼻から息を吐き、息を吸うという鼻呼吸は、有効です。聞く必要のない感情爆発による暴言に対しては、「反応しない・巻き込まれない」とつぶやいて深呼吸することです。

 3 相手を怖がらない

 人を支配しようとする相手を怖がることで、ストレスが増大します。相手は気持ちを冷静に言葉で伝えることができず、感情を制御できない人なのだと考えると、怖くなくなります。声の大きさや言葉の激しさをコントロールできない人なのだ、と冷静に捉えるのはどうでしょうか。

 4 気分的に距離を取る

 自分の方針だけが正しいという信念を持っている人は、考えの多様性を受け入れることはできず、いくら説明しても、逆に数倍の反論になって返ってくるものです。「気分的にスルーする」というイメージは、役に立ちます。仕事が邪魔される場合や円滑な運営が妨害されるときは、Aさんの場合なら、社長に内容を話すなどして、気分的な負担を軽くすることが必要です。

 ◇組織としての対策

 対策1 外部の相談窓口をつくる

 従業員50人以上の企業では、産業医が働く人たちの問題の相談窓口になっています。ところが、働く人が10人程度の企業では、そうした窓口がないのが現状です。

 Aさんのように理不尽な思いを抱えても、産業医など中立的な立場で支援してくれる機能がないことは、問題です。従業員が少人数の企業でも、外部の産業医や弁護士などに相談窓口をつくっておくと、ストレスが軽減されます。こうした場合は従業員の皆さんから、現在の社長にこうした外部相談窓口の設置を依頼してはいかがでしょう。

 以前、同じようなケースで、相談を受け外部の産業医として介入したことがあります。外部の客観的な意見として、パワハラ・モラハラの発言を禁止するように伝えることは、効果があります。また同じようなケースで、私の知り合いの弁護士から相談を受けて介入したこともあります。

 対策2 暴言やミスの奥に病気はないかのチェックは不可欠

 高齢者の暴言や自分のミスに気が付かないという状況の奥に、認知症などがないかということも心配です。認知症の初期には、感情が制御できなくなり、ちょっとしたことで切れて暴言を吐くようなことが起こります。Aさんの企業の創業者の場合、いくら説明しても理解されない、ミスに気が付かない状態が続く、勘違いが訂正できないなど、そうした懸念を持つ症状も見られますので、今後、認知症の中核症状といわれる、記憶の誤認や理解力の低下などが起きないかを見守る必要があります。(了)

【関連記事】

Dr.純子のメディカルサロン ハヤミミ