Dr.純子のメディカルサロン

検査で異常がないのに症状が出る?
~身体でストレスを表現~ ―あなたが弱いからではありません―

 「検査をしても特に大きな問題は見つからない。でも、身体に症状が出て日常生活に支障がある」―こういう場合どうすればいいですか、と相談を受けることがあります。検査で異常がないからすぐに「それは精神的な要因」としてしまうのは、問題があります。一般的な検査で異常が見つからないからといって「何もない」としてしまうのではなく、まず、きちんと考えられる疾患の可能性を検討することが必要です。それでもなお、検査で異常が見つからない場合は、ストレスによる症状の可能性が高いと言えます。
(文 海原純子)

緊急事態宣言が出される中、感染拡大への不安を抱えながら通勤する人々(2021年9月8日、東京・品川駅で)【EPA=時事】

 ◇感情を抑え込んで痛みの症状

 心理的要因で身体に症状が出るという場合は、身体症状症と呼ばれています。「身体化」という言葉がありますが、心理的な問題や苦痛を身体で表現していると言えます。こうしたことが一般に知られるようになったのは、比較的最近のことです。それまでは、症状があるのに原因が分からず、何件も病院を受診したり、検査を繰り返したりする場合もありました。

 ストレスという言葉がまだ、一般的でない頃の話です。左半身の痛みがあり、何件も病院を受診し、最終的に大学病院で精密検査をして「特に問題はない」と言われた20代の女性社員がいました。痛みが治らず、いろいろと話を聞いた結果、職場の左隣の席の先輩女性からのパワハラ的態度が続いて苦痛を感じて、それを我慢していたことが要因だと分かりました。このようにつらい感情を抑え込んでいたことで身体に痛みの症状が出ることもあるのです。

 ◇ストレスによる症状は多彩

 ストレスによる身体の症状はさまざまです。頭痛が続く、声がかれる、声が出にくい、耳鳴りやめまいなどの耳鼻咽喉科領域の症状。動悸などの循環器症状。胃の痛みや腹痛、下痢などの消化器症状。頻尿、生理不順などの他に、ストレスによる体温の上昇で不明熱が続くこともあります。また、不眠など睡眠障害の症状も多く見られます。最近のコロナ禍で、職場の勤務状況が変わりました。仕事量が増え、リモートワークによる環境の変化で、適応障害による身体症状と診断される人もいます。

 ◇CBRNE災害としてのストレス

 2年あまりにわたるパンデミックとなった新型コロナウイルス感染症。この新型コロナによるストレスを、CBRNE(chemical,biological,radiological,nuclear,high-yield explosives)災害の亜型として捉える研究者もいます。CBRNE災害とは、化学・生物・放射性物質・核・高性能爆発物による緊急事態のことを指します。自然災害より大きな社会的ストレスになる、と位置付けています。こうした状況で、不安感からパンデミック後にストレスによる身体症状が出ることを懸念する報告もあります。

 ◇症状が出るのは弱いからではない

 身体に症状が出ると「弱いところに出る」「弱い人だ」というレッテルを貼られてしまう傾向があります。そのため、受診を控えたり、受診してストレスが関係している可能性を話しても、それを受け入れず「自分はそんなに弱くはない」と否定する人もいます。しかし、身体に症状が出るのは、弱いことではなく、身体でストレスを表現しているのです。

 普段、自分の感情を抑え我慢して抑圧している傾向が強い人、つらくてもそれを表現しない人は、身体の症状が出ることがあります。また、言葉で表現しようとしてもボキャブラリーが少ない子どもは、自分の気持ちを伝えられず、身体に症状を引き起こすこともあります。

 「弱音を吐いてはいけない」「つらいと言ったり、助けを求めるのはよくない」と思っている場合も注意が必要です。

公園利用の自粛を求める掲示板の横をジョギングする人たち(2020年4月25日撮影、東京・駒沢オリンピック公園)

 ◇予防はどうすれば?

 1 感情抑え込まず表現する場所をつくる
 自分の気持ちを安心して話せる相手や場所の確保が大事です。人に話すことに抵抗がある場合は、気持ちを書いてみることが役に立ちます。ノートに自分の気持ちを書くと、書くことで表現できるからです。
 2  身体を定期的に動かす習慣をつくる
 身体を動かすことで感情を表現することもできます。特に、言葉でものを伝えるのが苦手な人や子どもは、踊る、走る、ストレッチなど身体をのびのびと動かすことで気持ちを表現することができます。
 3  生活リズムを整える
 朝の起床時間と就寝時間、食事時間を規則正しくして、生活リズムをキープすることで睡眠の質を保ちます。朝起きた時、窓を開け太陽の光を浴びると、それから14~16時間後に脳の松果体から睡眠を誘導するホルモンのメラトニンが分泌されます。なかなか寝付けないという悩みを持つ人は、早めに起き、朝の太陽の光を浴びて生活リズムを整えることが大事です。早く寝ようと頑張るより、まずは早く起きた方がリズムは作りやすいといえます。
 4  昼間、外で太陽の光を浴びる
 太陽の光に含まれるバイオレットライトは、うつ予防に効果があるという研究が報告されています。このライトはガラスで遮断されますから、昼間、外を散歩する時間をつくることも大事です。
 5  相談できる場を見つけておく
 友人や家族、職場の産業医・外部の専門家への電話相談など、心配事を相談できる人や場所を見つけておくことが大切です。また、そうした情報を事前に集めておくことも必要です。

 ◇症状が出てしまったら

 症状が出て、適応障害による身体症状と診断されたら、まず、休息を取ることが必要です。その上で、ストレス要因で改善できるものがあれば、環境改善を行います。

 また、我慢して抑え込んだ気持ちを表現できるようにしていくことが必要です。心療内科を受診するほか、心療内科でネットワークを組んでいる臨床心理士や公認心理師がいる場合は紹介してもらい、カウンセリングを受けたりすることも回復に役立つことが多いです。気持ちを抑え込む人は、気持ちを抑え込む心の癖がついていることがあり、こうした抑え込む癖を直しておかないと、再びストレスにより症状を起こしてしまうことがあるからです。(了)



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