視覚をイメージできない
~研究進むアファンタジア(福島大学人間発達文化学類 高橋純一准教授)~
「お母さんの顔を思い出して描いてみましょう」。幼稚園で先生に指示されたが、母親の顔を思い浮かべることができない―。視覚や知覚に異常はないが、人や物、行った場所などのイメージが頭に浮かばない「アファンタジア」という特性を持つ人がいることが分かってきた。研究を進める、福島大学(福島市)人間発達文化学類の高橋純一准教授に聞いた。
アファンタジアの人はイメージが頭に浮かばない
▽出現頻度は4%
「アファンタジア」は、イマジネーション(想像)を意味するギリシャ語「ファンタジア」の異常という理解から命名された。初めて報告されたのは100年以上も前だが、研究が進んだのはここ10年ほど。英国の神経学者ゼーマンが2015年に「実際の視知覚に異常は認められないが、視覚イメージの形成に困難を示す特質」と定義し、事例を報告したことから注目された。
主に欧米で研究が進んでいるが、日本で調査・分析を進める高橋准教授によると、最近報告されたアファンタジアの人の出現頻度は4%程度。判定基準によりもっと高率に認められる可能性もあると言う。
▽多様性を前提に
高橋准教授が知る、百貨店勤務のアファンタジアの人は「職場で、実際に目の前にない商品の配置をイメージしながら会話をする場面がつらかった」と打ち明けた。
同僚や上司に、頭にイメージが浮かばないという状況を理解してもらえず、職場に適応できなくなり、異動を申し出た。そうした対応を必要としない職場に異動してからは高い能力を発揮できたと言う。
そのほか、例えば、旅行先の情景を頭に思い浮かべながら家族と思い出話をする、駅までの風景をイメージするといったことができない。
「アファンタジアの困難は、目に見えないイメージという主観的な体験に関するものであるため、他の人には理解されにくく、社会における生きづらさが生じてしまうこともあります。ただ、それは周囲の環境が生み出したものとも言えます」と高橋准教授。
「社会や学校ではイメージの使用が前提になっていますが、人間の感じ方は多様であることを前提に、他者を理解していく必要があります」とアファンタジアへの理解を訴えている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2022/06/03 05:00)
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