インタビュー

知っておきたい過敏性腸症候群=鳥居明医師に聞く(上)

 胃や腸という消化器は「第二の脳」といわれるほどストレスに反応しやすい。強い緊張を強いられたり、不規則な日常生活を送ったりするだけで下痢便秘、消化不良や腹痛に悩まされる人は少なくない。特に就職や進学などで環境が変わりやすい年度初めは注意が必要だ。これらの症状は日頃珍しくないが、数カ月間以上続けば「過敏性腸症候群」(IBS)という病気の疑いがあることは知っておきたい。

 ◇日常生活に支障も

 IBSは潰瘍や炎症などがないにもかかわらず、腸の活動に一定期間以上の異常が続く状態を指す。内臓などの体組織に異常がある「器質的疾患」ではなく、腸の機能に異常が生じる「機能的疾患」だ。仕事や学業への影響はもちろん、急な便意を恐れて電車やバスなど公共交通機関の利用も控えたり、自宅に引きこもってしまったりと、日常生活自隊に支障を来すこともある。

 長年、大学病院や東京都内のクリニックでIBSの治療に取り組んできた鳥居明医師は「機能的疾患のため、内視鏡や超音波検査などで発見できる病気ではない。下痢便秘が一定期間、反復的に続くこと。そして排便前に腹痛や腹部の膨満感などの違和感があるという条件を満たすかどうかで、IBSと診断する」と話す。その上で患者数について「世界的に人口の15~20%、日本でも少なくても10~15%が発症しているという報告がある」と警告する。

 ◇異常の自覚は半数

 IBSにはタイプがある。下痢を繰り返しながら腹痛に悩まされる「下痢型」、逆に便秘を繰り返しながら腹痛や腹部の膨満感などの不快感に悩まされる「便秘型」、下痢便秘にランダムに襲われる「混合型」に大別され、男性は下痢型、女性は便秘型の比率が若干高いという。ただ、便秘下痢などの症状自体は珍しくない。以前は、便秘下痢で医師に相談しても「検査などで異状はない。心配するようなことはない」と言われた患者も少なくないようだ。

 鳥居医師は「IBSの患者のうち消化器の異常を自覚している人はほぼ半数にすぎない。残り半数は『体質のせい』『体調が悪いから』などと思って気にしていない」と話す。異常を感じている人についても「病院に行き適切な治療を受けている人、市販の下剤や下痢止めで症状をやり過ごしている人、特に対策をしていない人がそれぞれ3分の1ずつだろう。その意味では、表面に出て来る患者は氷山の一角だ」、と指摘する。

 腸の異常がなぜ起こるのか。鳥居医師によれば、脳がストレスを感じ、その影響で分泌される脳内物質が腸の活動に影響を与える、という。「ストレス性胃潰瘍という病気や『脳腸相関』という言葉があるほど、消化器と脳は互いに影響している。ストレスへの耐性や生まれ育った環境によって発病時期や症状の重さは異なるが、多くの患者は思春期に症状が出る。その後、ストレスが大きくなる受験や就職などをきっかけに症状が悪化し、初めて医師の診察を受けるようになる」

(喜多壮太郎)

〔後半へ続く〕過敏性腸症候群は一生の病気=鳥居明医師に聞く(下)


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