腎臓のネフロン数とポドサイト数が正相関することを世界で初めて解明~ポドサイト数を正確かつ簡便に測定する手法を確立~ 東京慈恵会医科大学 Monash University 日本医科大学
その結果、
1) ポドサイト数密度、糸球体あたりのポドサイト数、ポドサイト体積密度など各種ポドサイト指標は、いずれもネフロン数と正相関した(図2)
2) 傍髄皮質層や中間層と比較して、表層の糸球体やポドサイトは小さく、ポドサイト数密度は高かった。一方で、糸球体あたりのポドサイト数やポドサイト体積密度は、三つの腎皮質領域間でほぼ同等だった
3) 加齢は表層のポドサイト数減少に、高血圧は傍髄皮質層のポドサイト数減少に特に強く関連したことを報告しました。
今後の展開
本研究でポドサイトの数と大きさの計測に用いた方法は、臨床で得られる腎生検*3検体にも適用可能です。腎疾患患者さんより得られた腎生検検体においてポドサイトの数や大きさを計測し、腎疾患の発症・進展や腎予後にどのように関与するのかについて今後検証する予定です。また、一般的に腎生検で得られた腎組織の解剖学的な位置(腎皮質領域)を完全に把握することは困難ですが、本研究結果より、一部のポドサイトの数や大きさの指標は、採取された腎皮質領域と無関係であることも明らかとなりました。さらに、われわれの研究グループでは、単純CT画像と腎生検検体の組み合わせによりネフロン数を推算する方法も確立しており(Sasaki T et al. Sci Rep 2019)3、この方法とあわせて「腎臓あたりの総ポドサイト数」という新たな指標の臨床的な有用性についても検証していきます。
本研究においてネフロン数と各種ポドサイト指標は正相関することが観察されましたが、これは世界初の知見です。一般的にネフロン数やポドサイト数などのポドサイト指標が多いほど健康な腎臓と考えられるため、ネフロン数とポドサイト指標は相乗的に生理的な腎機能の維持や腎疾患の進展に関与している可能性があります。また、ネフロンやポドサイトは増殖・再生能がなく、出生後まもなくにネフロン数やポドサイト数は決定されると考えられています。従って、ネフロン数やポドサイト数の決定に最も強く関連する母胎環境の重要性をさらに支持する研究結果でもあります。
研究費
本研究はJSPS科研費 JP 21K08238, JP22K16250の助成を受けたものです。
論文情報
タイトル:Associations between nephron number and podometrics in human kidneys
著者:Kotaro Haruhara, Go Kanzaki, Takaya Sasaki, Saeko Hatanaka, Yusuke Okabayashi, Victor G. Puelles, Ian S. Harper, Akira Shimizu, Luise A. Cullen-McEwen, Nobuo Tsuboi, Takashi Yokoo and John F. Bertram
掲載雑誌:Kidney International
DOI:10.1016/j.kint.2022.07.028.
用語解説
1. 剖検:死亡の原因や病気の広がりを調べるために死後に行う病理解剖のこと。
2. 慢性腎臓病:尿異常,画像診断,血液,病理で腎障害の存在が明らか、または推定糸球体濾過量60 mL/分/1.73 m2以下が3カ月以上続くことにより診断される。日本では、成人の約8人に1人が慢性腎臓病と診断されると推定されており、末期腎不全や心血管病のリスクとなる新たな国民病である。
3. 腎生検:腎機能低下や蛋白尿・血尿の原因となる腎疾患の診断や予後予測、治療法決定のために腎臓から組織採取する手技のこと。
参考文献
1) Haruhara K, Sasaki T, de Zoysa N, et al. Podometrics in Japanese Living Donor Kidneys: Associations with Nephron Number, Age, and Hypertension. J Am Soc Nephrol 2021;32:1187-1199.
2) Kanzaki G, Puelles VG, Cullen-McEwen LA, et al. New insights on glomerular hyperfiltration: a Japanese autopsy study. JCI Insight 2017;2:e94334.
3) Sasaki T, Tsuboi N, Okabayashi Y, et al. Estimation of nephron number in living humans by combining unenhanced computed tomography with biopsy-based stereology. Sci Rep 2019;9:14400.
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(2022/09/27 11:14)