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ヘルパーはやりがいがある
~介護される人との濃密な時間~

 ホームヘルパー(訪問介護員)とサービスの利用者は濃密な時間を共有するパートナーである―。約20年間、東京でヘルパーを務めた経験を生かし、「ヘルパーと高齢者のちょっと素敵な時間」(ドメス出版)を書いた向山久美さんはこう語る。向山さんに、ヘルパーとしての役割や喜び、苦心などを聞いた。

20年以上にわたりホームヘルパーを務めた向山久美さん

20年以上にわたりホームヘルパーを務めた向山久美さん

 ◇「師匠」との出会い

 体の不調や悩みを抱える高齢者の自宅を訪れる時、緊張しないだろうか。向山さんが「師匠」と呼ぶフミ子さん(仮名)は脳梗塞の後遺症で、ほとんど寝たきりの独居生活を送っていた。初めて一人で訪問した時、体を拭くために衣服を脱がそうとしたが、なかなかうまくいかない。「すみません」を連発する向山さんにフミ子さんは言った。「何であんたみたいな初心者をよこすのかねえ…」

 複数のヘルパーの世話になるフミ子さんは、それぞれのヘルパーの態度や技術をしっかり観察していた。向山さんは頑張って介護を続けた。「やり方がいつもと違う」「それは痛いわよ」。フミ子さんは時に注意する一方で、「うまくなったわよ」と褒めてくれるようになった。二人の関係も段々と深まっていった。

 向山さんは「ヘルパーは利用者に鍛えられると、しみじみ感じた」と振り返る。

 ◇信頼関係築くには時間がかかる

 2年間の訪問の後に93歳で亡くなった女性は「ヘルパーなんか嫌だ」と一人暮らしだった。心配した娘が訪問介護事業所にヘルパーを依頼し、向山さんが派遣された。「頼みたくなかったけれど、あなたが来てくれてよかった」

 ヘルパーと高齢の利用者が、1回の訪問だけで打ち解ける関係になることはない。向山さんは「信頼関係を築くのは年単位で、2~3年くらい時間がかかるのは当たり前だと思う」と話す。障害のある利用者とは10年以上に及ぶ長い「お付き合い」だ。

 ◇受け入れ、共感する

 利用者を一人の人間として受け入れ、言うことにじっと耳を傾ける。そして共感する。向山さんによれば、それがヘルパーの心得だ。「私が若くて元気だったら、あなたなんかに頼らないわよ」。そう口にしたくなる高齢の利用者の気持ちを理解する。向山さんは「体が弱り、つらくなっている時に、プライドを傷つけてはいけない」と、絶えず自身を戒める。

 仕切るタイプのヘルパーは嫌われるという。「こうしたら良いのになあ」と思うことがあっても、自分の意見を利用者に押し付けないようにすることが大事だ。部屋の中にゴミがたまっていたりするなど、ヘルパーが「何とかしなければならない」と感じるようなケースもある。向山さんはそういう時だけは「お願いします。これをやらせてください」と声を掛けるように努めた。

経験を生かして書いた向山さんの著書

経験を生かして書いた向山さんの著書

 ◇待ってる人がいる

 向山さんの活動範囲は原則、自宅から半径2キロ以内で、自転車で利用者の住居に向かう。「私を待ってる人がいる」。ヒットした山口百恵さんの歌の一節を口ずさみながらペダルをこぐ。仕事の都合で訪問の回数が少し遠のいた利用者は、向山さんの顔を見るなり「あんたが来てくれなかったから、本当に寂しかったよ」と笑顔を見せた。それが仕事へのやる気を加速させた。

 向山さんが気掛かりな事がある。介護報酬の改定に伴うサービス時間の短縮だ。向山さんがヘルパーを始めた頃は1回の訪問時間が2時間、長い場合は3時間。掃除や洗濯、排せつ介助などの仕事をこなした上で、利用者と触れ合う時間が持てた。現在は1時間以内がほとんど。それまではできた「話し相手」「相談・助言」 というサービスは難しくなってきている。「話していると、元気が出る」という利用者は少なくなく、しゃべりだすと止まらなくなる人もいる。毎週、家族が訪ねてくる人でもそうだ。

 「自立支援」として、ヘルパーと利用者が一緒に料理をすることも時間の制約で難しくなってきている。食べるのはレトルト食品だ。向山さんは「話し相手になることなど必要ない。掃除や洗濯だけをやっていればいい。厚生労働省はそういう考えなのだろうか」と不満を隠さない。

 ◇良いヘルパーに巡り合えるか

 ヘルパーの賃金は決して高くはない。ケアマネジャーが立てたプランに時折疑問を感じることもあるが、その計画に従って行動しなければならない。しかし、「利用者の『ありがとう』がやりがいを与えてくれた」と向山さんは言う。既に超高齢化社会に入っている日本では、介護という課題は避けられない。良いヘルパーに巡り合えることは、利用者本人だけでなく、その家族にとっても救いとなるだろう。(了)

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