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紫外線殺菌の基本原理において従来の定説を覆す効果を世界で初めて発見!
より安全な紫外線殺菌技術の実現へ 名古屋市立大学 論文発表

Nature Research 社『Scientific Reports』2022年12月30日(グリニッジ標準時)に掲載


                  研究成果の概要

 名古屋市立大学大学院芸術工学研究科の松本貴裕教授、医学研究科細菌学分野の立野一郎講師、長谷川忠男教授らの共同研究グループは、紫外線殺菌技術において従来の定説を覆す効果を発見しました。
 コロナウイルスを含む様々な病原性ウイルスや細菌を殺菌する手法として、薬液を利用しないで広範囲な殺菌が可能な紫外線殺菌技術が注目されています。この紫外線殺菌は、従来、照射線量(紫外線強度×時間)が同じであれば殺菌率は同じである、と考えられておりました。しかし、今回の研究において、今までの定説が成立しないことを、大腸菌を用いた紫外線殺菌実験で実証しました。具体的には、照射線量が一定の条件下で、紫外線照射強度を大きく変えて大腸菌の殺菌率を精密に評価してみると、紫外線強度が弱くて長時間殺菌した場合のほうが、紫外線強度が強くて短時間殺菌した場合よりも、殺菌効率が大きいことが判明しました。これら一連の実験結果は、数学の最先端手法である確率微分方程式を用いて解析することによって、新たな紫外線殺菌メカニズムの存在が明らかになりました。今回の研究成果は、今後の紫外線を用いた殺菌技術および装置開発に大きく貢献できるものと考えております。
 本研究は、Nature Research 社の『Scientific Reports』に2022年12月30日(グリニッジ標準時)に掲載されました。

【背景】
 コロナウイルスを含む様々な病原性ウイルスやバクテリアを殺菌する手法として、紫外線殺菌技術が注目されています。この紫外線殺菌の基本原理は、照射線量※1が同じであれば殺菌量は同じである、と考えるものであります。具体的には、強度が強い紫外線を短時間照射して殺菌した病原性ウイルス・細菌の殺菌率と、強度が弱い紫外線を長時間照射して殺菌した病原性ウイルス・細菌の殺菌率は、照射線量が同じであれば同殺菌率を与えるものと従来考えられていました。

研究の成果】
 名古屋市立大学大学院芸術工学研究科の松本貴裕教授、医学研究科細菌学分野の立野一郎講師、長谷川忠男教授らの共同研究グループは、今回の研究において、今までの定説が成立しないことを、大腸菌を用いた紫外線殺菌実験で実証しました。具体的には、照射線量が一定の条件下で、紫外線照射強度を大きく変えて大腸菌の殺菌率を精密に評価してみると、図1に示すように、紫外線強度が弱くて長時間殺菌した場合のほうが、紫外線強度が強くて短時間殺菌した場合よりも、殺菌効率が大きいことが判明しました。図1は、紫外線強度10 mW/cm2で1 sの場合90%の殺菌率(大腸菌数が紫外線照射によって6000個から550個に減少)であったのが、0.1 mW/cm2で100 sの場合99%の殺菌率(大腸菌数が紫外線照射によって6000個から60個に減少)になる結果を示しています。

 上記、従来の定説を覆す紫外線殺菌実験結果は、近年、名古屋市立大学の研究グループ以外にも、世界の最先端研究機関(カナダ、イスラエル)によって相次いで報告されていましたが、その殺菌メカニズムは謎に包まれておりました。
 今回、数学の最先端手法である確率微分方程式※2を用いて実験結果を解析することによって、従来考えられていた図2に示すような紫外線殺菌のメカニズム(紫外線によるウイルス・細菌のDNA破壊)に加えて、図3に示すような新たな紫外線殺菌メカニズムの存在が明らかになりました。この新たな紫外線殺菌メカニズムは、現在のところ、紫外線照射によりウイルスや細菌内で活性酸素※3が生成され、この活性酸素がウイルスや細菌のDNAや脂質層を破壊して殺菌するものと考えられます。この活性酸素は不安定で、活性酸素同士が出会うとすぐに活性の無い酸素に変化してしまいます。このような理由により、強い強度の紫外線をウイルスや細菌に照射すると大量に活性酸素が生成されますが、活性酸素同士が結合して活性が無くなる為、紫外線の殺菌効果が薄れてしまうことになります。


 要約すると、今までの定説では、紫外線照射によりDNA(RNA)構造が破壊されるためウイルスや細菌の殺菌が行われると考えられて来ましたが、今回の研究で、紫外線殺菌には2つの効果、(i) DNA(RNA)の破壊、(ii) 活性酸素によるウイルスや細菌の死滅効果、が共存していることがわかりました。2つの効果が共存する場合、紫外線強度が強いと、弱い場合と比較して(ii)の効果が薄れるため、殺菌効率が低くなります。従来の定説を覆すこの新たな紫外線殺菌の基本原理は、大腸菌に限らず種々の細菌で同様に成立することが判明しており、普遍的に成り立つ法則であると考えられます。
 同じ照射線量でも低強度の紫外線を長時間照射することで大きな殺菌効果を引き出せるという今回の知見は、紫外線殺菌時に人体への紫外線照射線量を低減できるため(1日に人体に浴びて良い紫外線照射線量は法律で規定されている)、今後の紫外線を用いた居住空間および病室の紫外線殺菌技術および装置開発に大きく貢献できるものと考えております。

用語解説】
※1. 照射線量:紫外線殺菌においては、照射強度(mW/cm2)×照射時間(s)で定義される量。
※2. 確率微分方程式:ウイルスおよび細菌の増殖死滅過程を確率過程と捉え、将来起こる確率は、現在得られている確率とその単位時間内におこる確率の積と考える。この考え方により得られる微分方程式。基礎科学的分野(例えばブラウン運動の理解)のみならず、現在では金融工学等の分野で幅広く用いられている。
※3. 活性酸素:酸素原子・分子から生成される酸化力の高い化学物質。過酸化物、スーパーオキシド、一重項酸素等の物質が有名。

研究助成】
本研究は、名古屋市立大学の特別研究奨励費(2121102)の研究助成により行われました。

【論文タイトル】
“Time‑dose reciprocity mechanism for the inactivation of Escherichia coli explained by a stochastic process with two inactivation effects”

【著者】
松本貴裕 (名古屋市立大学芸術工学研究科、筆頭著者)
立野一郎 (名古屋市立大学医学研究科)
吉田有輝也(名古屋市立大学芸術工学部、現株式会社アメイズプラス)
冨田誠  (静岡大学理学研究科)
長谷川忠男(名古屋市立大学医学研究科)

【掲載学術誌】
学術誌名: Scientific reports (サイエンティフィック レポーツ)
DOI番号:https://www.nature.com/articles/s41598-022-26783-x

【研究に関する問い合わせ】
名古屋市立大学 大学院芸術工学研究科 教授 松本貴裕
住所: 名古屋市千種区北千種2-1-10
TEL:052-721-5211        
E-mail:matsumoto@sda.nagoya-cu.ac.jp

【報道に関する問い合わせ】
名古屋市立大学 総務部広報室広報係
名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
TEL:052-853-8328  FAX:052-853-0551
E-mail:ncu_public@sec.nagoya-cu.ac.jp


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