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「出自知る権利不明確」「母親のケアも大事」
~内密出産めぐる日弁連シンポジウムで識者ら議論~ 法整備求める意見相次ぐ

 日弁連は2022年12月17日、予期せぬ妊娠で困難に直面した女性が病院だけに身元を明かして出産する「内密出産」の問題を考えるシンポジウムを東京都内で開いた。内密出産に詳しい奈良大学の床谷文雄教授(民法、家族法)の基調講演の後、識者がパネルディスカッションで、子が将来自らの出自を知る権利、母親へのケア、病院への財政支援などさまざまな論点について議論した。昨年9月に出された内密出産の取り扱いに関する法務省と厚生労働省連名のガイドライン(指針)については、具体的ではないなどとして、国会での議論、法整備を求める意見が相次いだ。

 パネリストは床谷教授のほか、前・熊本市要保護児童対策地域協議会「こうのとりのゆりかご専門部会委員」の国宗直子弁護士、一般社団法人「ベアホープ」理事兼全国妊娠SOSネットワーク理事で助産師の赤尾さく美氏、日弁連家事法制委員会の橘高真佐美弁護士。(時事通信社編集委員 長橋伸知)

国宗氏

国宗氏

 ◇子が出自を知る権利

 出自を知る権利については「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)の検証にも携わった国宗弁護士から幅広く意見が出た。

 国宗弁護士は「出自を知ることは、自分は何者なのかというアイデンティティーに関わる非常に重要な問題。しかし現在までに7例(シンポジウム後に8例目が発表)の内密出産が実施されたと聞いているが、この子どもたちの出自を知る権利が今後どうなっていくのか今、明確にはなっていない。今後、内密出産をする人にとって十分なものなのか、その検証もない」などと指摘した。

 さらに「出自がきちんと追跡できなかった時の責任をどうするのか。後から『あの時、法整備が不十分でした』では済まない。このままの状態で内密出産を今後も続けていくことには非常に不満がある」と意見を表明。「公的な整備がない中で、一病院の判断で始まったことへの『不充足感』がすごくある。熊本で内密出産が見切り発車されてしまったイメージだ」と述べた。

 国宗弁護士は「『こうのとりのゆりかご』では自宅などでの(危険な)孤立出産が非常に多く、母子の安全がより確保される内密出産に発展した方がいいとは思っている」とした。その上で、「出自を知る権利については指針に盛り込まれた内容でとどめずに、しっかり国会で議論して法律を作って、子どもたちに法的な基盤を与えてほしい」と訴えた。

 一方、床谷教授は、「この問題については、とりわけ母と子の利益や権利確保をどう図り、どう調整し、どう法的に押さえるかということが重要」とした。

 また「子どもが出自を知る権利を否定する人は多くない。母のプライバシー権についても一定の範囲で理解があると思う。これをてんびんに掛けて、どちらが重いかという問題ではない」などと述べた。

 ◇母親への支援拡充を。見えない「父親」問題

 内密出産する母親への支援についても各パネリストから多くの意見が出た。

 中でも国宗弁護士は「内密出産をした母親の権利もまた非常に重要」とした上で、「内密出産で生まれた子どもと同時に、お母さんもまた一緒に幸せになっていくようなところを目指して取り組んでいくことが必要。子どもを産む前から産んだ後まで含めて、お母さんへのケアというのは、連続的な系統立った社会政策として必要だ」などと指摘した。

 国宗弁護士はまた、姿の見えない「父親」の問題にも言及した。「内密出産の問題ではいつか必ず『父親』の問題が出てくる。全く不問に付されたまま、責任を取らない男性がいっぱい出てくるいう問題もある」などと述べた。

赤尾氏

赤尾氏

 国宗弁護士はさらに、「女性が子どもを産み、育てるに当たっての基本的な権利が日本ではまだきちんと明らかにされていない。思いがけない妊娠で苦境にある女性の選択肢の一つに人工妊娠中絶があるが、これができれば、問題のかなりの部分は解消できるはず。人工妊娠中絶は、資金面や、父親の同意が必要など、たやすくはない状況があるが、私は、女性の生き方の中の大事な選択肢の一つであると思う。子どもを産まないという選択肢もあっていいのではないか」と述べ、この点についても並行して議論を深めていく必要性を指摘した。


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