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子どもの「腸活」が大事なわけ
~多様な菌が心身を健康に~

 私たちのおなかの中にある腸は、食べ物の消化吸収を担う。昨今は体の免疫機能や長寿などに関係があることが分かってきており、飲料メーカーなどの関連商品が売れている。腸内環境を整えるには早い方がいいとされ、「腸活は2歳から」と話す専門家も。また、脳との関連性も注目され始めている。いずれもカギは腸内細菌だ。

近年、腸は消化吸収だけではない重要な役割を果たしている器官であることが分かってきた

近年、腸は消化吸収だけではない重要な役割を果たしている器官であることが分かってきた

 ◇便を調べて…

 人の腸内には細菌が約1000種、40兆個ほど生息しているとみられている。種類は人それぞれで、食生活や住む国なども違いの一因。細菌はおのおの役割も違い、常に互いに競合・協調しつつバランスを保っているという。

 腸内細菌について「種類は多ければ多いほどいい」と話すのは、主にアスリートの腸内細菌を研究する「AuB」(東京)取締役で研究統括責任者の冨士川凛太郎さん。同社はアスリートの便検体に含まれている腸内細菌のDNAを採取・解析し、その種類や数を検出。体調や健康との関係を探っている。

 これまでの研究で、細菌の種類が豊富だと①風邪を引きにくい②食物アレルギーになりにくい③酪酸菌などの「善玉菌」が一般人より多い―などが分かってきているという。冨士川さんは「約1000人分の検体から得たデータを生かして、アスリートだけでなく、全ての人の健康な体づくりに貢献するのが目的」と日々格闘中だ。

マイナス80度の冷凍庫の中に、検体の便や、便と分離させた腸内細菌から抽出したDNAを保存している

マイナス80度の冷凍庫の中に、検体の便や、便と分離させた腸内細菌から抽出したDNAを保存している

 ◇菌を増やせるのは幼少期

 「腸内細菌の働きがバリアー機能を果たしている」と冨士川さん。

 細菌は腸内で食物繊維などの未消化物を餌にして代謝物質を作り続けている。代表的な物質の一つが短鎖脂肪酸だ。主に、酪酸菌やビフィズス菌が作り出す酪酸や酢酸、プロビオン酸を指す。これらは腸管から吸収され、感染症予防に重要な役割を担う抗体の一種である免疫グロブリンA(IgA)を生み出す。IgAは腸管だけでなく、血液や粘膜を介して感染症を予防している。

 また、酪酸は免疫を調節する制御性T細胞を活性化させることも分かっていて、「ちょうどいい免疫力」を保つ。つまり、免疫の暴走であるアレルギー反応を防ぐ役割も担っているのだ。冨士川さんは「食物アレルギーの子の便は多様性が低かった」と指摘する。

 「成人でも、病気がちな人は腸内細菌の多様性が低く、補おうとしても定着させられず、限界があった。一方、2~6歳ごろまでは食事や接触によって菌をどんどん取り入れ、腸内に常在菌として住まわせることが可能。多様な菌を抱えられる子ども時代こそ、腸活が重要になってくる」と冨士川さんは話す。

 具体的には、ヨーグルトや納豆、漬物などを食べて善玉とされる菌を直接摂取したり、その菌の餌となる食物繊維が含まれる野菜や果物、豆類などを取ったりするといい。バランスよく食べることが重要だ。同社は両方を手軽に取れる商品を開発・販売し、子どもの腸活をサポートしている。

「腸活の重要性を知ってほしい」と冨士川さん

「腸活の重要性を知ってほしい」と冨士川さん

 ◇コロナの影響を懸念

 腸内細菌と免疫システムに関し、冨士川さんが懸念していることがある。新型コロナウイルスの影響だ。「パンデミックの最中に生まれた子どもは、腸内細菌の多様性が低いことが明らかになっている。免疫システムを考えると非常に不利と言える」。

 コロナ禍で手指の消毒・殺菌が当たり前になった上、人との触れ合いも制限された。2018年生まれと20年生まれの子の1歳時の腸内細菌数を比較すると、前者は後者のおよそ半分しかないという。冨士川さんは「多様性の点を考えると心配だ。意識して自然の中で過ごす時間を増やしたり、食品から摂取したりして、上手に加菌してほしい」と呼び掛けた。

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