次のパンデミックに備えて
~平時の取り組みが大切―政府主催シンポ~
内閣感染症危機管理統括庁が主催したシンポジウム「新たな感染症危機にいかに備えるか」が1月12日、東京都内で開かれた。新型コロナウイルスや新型インフルエンザによるパンデミック(感染爆発)は数年から数十年に1回起こると予想される。さらに、サイレントパンデミックといわれる薬剤耐性(MAR)感染症が将来拡大する恐れがあるという。シンポでは、「平時」の備えが重要であることが強調された。
新たな感染症危機をテーマにしたシンポジウム=東京都内
◇統括庁が扇の要
岸田文雄首相はビデオメッセージを寄せ、「多くの困難と向き合いながら新型コロナウイルス感染症と闘ってきた医療関係者、国民の皆さんに感謝する」と述べた。首相は続けて「次なる感染症危機に備えて万全の対策を取るため2023年5月に司令塔として設置した危機管理統括庁が扇の要として重要な役割を担う。経験を振り返り国民の意見も踏まえて行動計画を改定し、感染症危機に対し強靭(きょうじん)な社会をつくっていく」と強調した。
基調講演した齋藤智也氏
◇「過去問」型にならない
基調講演で、国立感染症研究所の齋藤智也・感染症危機管理研究センター長は次の感染症パンデミックの可能性に言及した。
「1918年のスペインインフルエンザ(スペイン風邪)や2009年のパンデミックインフルエンザ、19年の新型コロナウイルスなど、この100年間に5回のパンデミックが起きた」
感染拡大の被害を抑制するためには、過去の対応を振り返り、より早く、より効率的に動けるように準備することが重要だ。齋藤センター長は「『喉元過ぎれば熱さを忘れる』といわれる。モチベーションを失わずに、人、モノ、金という危機管理の三つの要素に投資する必要がある」と語った。
一方で、「過去の事例を学び過ぎてしまう『過学習』に陥ることは良くない」と注意喚起する。2019年に用意されていた行動計画はほぼ新型インフルエンザを想定したものだったが、現れたのは新型コロナウイルスだった。新型コロナウイルスの経験に学ぶことは必要だが、それに引きずられないようにする。「『過去問』型危機管理にならず、常に新しいリスクに備えていきたい」と述べた。
政府行動計画について齋藤センター長は、国民が読みやすいものにするための工夫を求めた。
「計画を作っても読んでもらえなければ備えていないのと同じで、倉庫にしまったままの備品のようなものだ。一にも二にも計画を読んでもらうこと。それがパンデミック時の選択肢を増やすことになる」
◇平時における訓練を
パネルディスカッションでは、さまざまな分野の専門家が発言した。統括庁の鷲見学・内閣審議官は米国や英国、ドイツなどの死者数が比較的多かったことについて「感染前半での対応が影響したのではないか」と分析した。ただ、日本についても「平時における備えが不足していたのではないか」とし、改定する政府行動計画に関し「感染症の有事におけるメニューをそろえる。平時にできないことは有事でもできない。平時での訓練などが重要だ」と述べた。
◇新機構に期待
厚生労働省健康・生活衛生局の佐々木昌弘・感染症対策部長は、25年に国立感染症研究所と国立国際医療研究センターが統合されて発足する国立健康危機管理研究機構について「特殊法人にしてある程度の自由度を持たせた」と説明。米国の疾病対策センター(CDC)の「日本版」としての活動に強い期待を示した。
パネリストの大曲貴夫氏
◇準備が足りていたか
国立国際医療研究センターの大曲貴夫・国際感染症センター長は「何とかここまで来たな、というのが本音の心境だ」と述べるとともに、「これで良かったのか? もっとできることがあったのではないか。パンデミックに対する準備はしていたが、その準備が足りていたのか」と、新型コロナ感染症への対応を振り返った。
大曲センター長は新たな感染症への備えについて「社会の分断を招かないような対策を作りたい」と強調した。
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(2024/01/25 05:00)