現代社会にメス~外科医が識者に問う

「医師の働き方改革」スタート
~医療の質落とさず効率化できるか~ ワーク・ライフバランス 小室淑恵さんに聞く(上)

 ◇申し送り時間減、余力を患者対応に

カエル会議で張り出された付箋。職位に関係なく、さまざまな意見が寄せられた(徳島大学病院形成外科、脳神経外科の提供写真)

カエル会議で張り出された付箋。職位に関係なく、さまざまな意見が寄せられた(徳島大学病院形成外科、脳神経外科の提供写真)

 ―病院では具体的にどのような改革が行われたのでしょうか。

 小室 民間企業でも病院でも非常に効果が高いのが、先ほどお話ししたカエル会議という手法です。ヒエラルキーが強い組織では、口頭で「職場の課題は? 働き方をどう変えたい?」と聞いても上への忖度(そんたく)が働き、本音が出てきません。結果として上の人のための改革しかできません。どの職場でも下の方が一番の犠牲になっていて、その人たちが変えたいことをテーブルに出すのが重要なので、「付箋」に無記名で働き方の課題や解決策を書く方法で意見を吸い上げる仕組みになっています。最初はいろんな議論が巻き起こりますが、今まで言えなかった「働き方を変えたい」という思いを見える化さえすれば、他の人たちの協力が得られ、ブレークスルーしていきます。

 ―カエル会議ではどのような意見が出たのでしょうか。

 小室 数々の課題が出された中で、「申し送りの時間を短くしたい」という意見が出たのが印象的でした。ベテランの先生の中には「申し送りの時間を減らすと患者の情報が不足して質が下がる」とおっしゃる方もいました。「端的に話してもきちんと伝わる先生もいます」と伝えると納得し、具体的にどう話すのかを探ることになりました。

 ストップウオッチで一人ひとりの時間を計って分析したところ、端的に話す人は話す順番に法則性があり、あらかじめ項目が整理されていることや、情報共有なのか相談なのかを明確にしてから話し始めることが見えてきました。例えば、単なる情報共有が目的なのに相手が不必要なアドバイスを始めると無駄な時間が生まれます。話すことを整理してから申し送りを行ったところ、面白いことに3割も時間が減少したのです。以前は90分かかっていたことが60分で済むようになりました。浮いた30分を患者さんへの対応や後進の育成に当てることができ、結果的に医療の質が上がったと言われました。

 全員で意見を出し合い、それを一つ解決するだけでも成果が出ます。これをみんなで繰り返して積み重ねればいいということが分かってきます。定時になったら仕事を途中で投げ出して帰るのが働き方改革だと思っている方が多いのですが、必要ではないことを減らし、育成や患者対応など本当に大事なものを守る。だからこそ医療の質が上がる。その取り組みが働き方改革なのです。そういう合意をいかにみんなでしていくかということで変化が生まれます。

糸魚川総合病院の断捨離・整理整頓前(上)と後(下)。雑然としていた棚がすっきりした

糸魚川総合病院の断捨離・整理整頓前(上)と後(下)。雑然としていた棚がすっきりした

 糸魚川総合病院の例を紹介すると、カエル会議で出てきた課題は「手術室に使われていない機械や材料があり、動線が悪く準備の作業効率が下がっている」という問題意識でした。手術室のメンテナンスをする3日間で一斉に断捨離・整理整頓することをみんなで合意し実践。動線が改善され、作業効率が上がりました。

 また同病院では、手術には看護師が3人携わることが通例となっていました。カエル会議に他病院から移ってきた看護師が参加したところ、「以前の病院では2人体制だった」と発言。当たり前だと思って見直す余地がないと思っていたことも、一歩外に出ればいろいろなやり方があるのかもしれないと検討が始まりました。平均2.5人ならいけるかもしれないと手術の内容に合わせて2人もしくは3人体制に柔軟に変更してみたところ、問題はなく、浮いた時間を患者さん対応に割けるようになりました。驚くべきことに、前年と比較してみると、難易度の高い手術の数が3割増え、看護師の残業時間は16%減少していたという結果になったのです。


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