女性医師のキャリア

小児外科医として働き続ける苦悩
~時代に合った医局の在り方を問う~

 ◇医局外からの就職は困難

 指導医を取得する数年前から、上司に他施設への異動を勧められるようになりました。その当時、私の2年下に大学医局から派遣された医師がおり、その医師が外科部長を継ぐことは既定事実でした。私の年齢や指導医の取得が彼にとってやりづらい、という忖度だったと思われます。医局外からの就職が困難なため、「この病院で診療を続けたい」との希望を伝えていましたが、臨床の中心から徐々に外されるようになり、居づらくなっていきました。

 そのころから、私の目標は、子育てをしながら急性期病院で臨床の最前線で働き続けることになっていきました。臨床ができる場所を求めて職探しを始めたものの、受け入れてくれる小児外科施設はありませんでした。どの施設も大学の医局派遣で成り立っているので余剰なポストがないのが理由でした。

 小児外科施設での仕事を断念し、一般外科枠での採用が決まろうとしていたところ、「指導医が小児外科医を続けないのは困る」と某大学の小児外科教授から声がかかりました。その方の計らいにより公立の小児医療センターが小児外科医として迎え入れてくださり、なんとか小児外科医を続けることができました。

 ◇医局支配のない環境で診療に集中

 私は医局に属していなくても、ひたすら技術を磨き、施設の外科医メンバーの一人として重要な役目を果たしてきました。学会での発表も定期的に行っていました。勤務している茨城県立こども病院は、都立病院時代に一緒に働いていた検査技師の赴任先です。彼が私を茨城に呼び寄せるよう外科部長に強く働き掛けをしてくれたことで外科部長が私の業績を見てくださり、当院に招聘(しょうへい)されました。この病院は日本一小さな小児病院ですが、だからこそ各診療科の垣根が低くて働きやすそうだったこと、大学医局に支配されていない希少な施設ということで異動を決めました。医局に属していない立場で公立病院の小児外科部長という役職に就けるのは極めて異例です。しがらみやストレスがなく、診療に集中できる居心地の良い環境をやっと手に入れたという思いで日々働いています。

病棟で患者と軽食を作る東間医師

病棟で患者と軽食を作る東間医師

 ◇小児外科施設の集約が急務

 昨今の外科医不足により、大規模であっても小児外科施設はいつも人手不足の状態です。今後、少子化が進むと小児外科施設も集約せざるを得ないと思うのですが、現状では医局内でのポジション争いに敗れた医師が小児科医として開業したり、別の総合病院に新たに小児外科を立ち上げて一人医長となったりするなど、集約どころか施設ごとの小児外科医数は減り、小児外科を扱う施設が分散していく印象を受けます。質の高い小児外科医療を安定して提供していくためには施設を集約し、指導医もそのほかの医師も複数、十分な人員を配置することが必要ではないかと感じています。医局の力学や慢性疲労によって外科医が切り捨てられるようなことは決してあってはならないと思います。医局外から見ていると、議論はいつも空回りでそれぞれの医局の事情や存続が優先されているように見えます。少子化が急激に進む中で日本の小児外科医療をどうするのか、医局の利害を脇に置いて議論する時ではないでしょうか。

 ◇外科医を諦めないでほしい

 私が今一番伝えたいことは、「信念を持って、誠実に仕事をしていれば、絶対に誰かが見てくれている」ということです。社会に出ると、出るくいを打つ人がたくさんいます。それをどこかで誰かが見ていて打たれたくいを引っ張り上げてくれます。私自身、楽しみながら一生懸命に仕事と向き合ってきました。苦境においても見ていてくれた人が手を差し伸べてくれたおかげで、今こうして素晴らしい環境で小児外科医を続けられています。たとえ壁にぶつかっても、絶対に諦めることなく、やりたいことを追求するというのはすごく大事なことだと思います。

聞き手・文:稲垣麻里子、企画:河野恵美子(大阪医科薬科大学医師)

 東間未来(とうま・みき) 1996年昭和大学医学部卒業。聖路加国際病院外科、国立国際医療センター外科を経て、2001年東京都立小児総合医療センターにて小児外科を専攻。2013年埼玉県立小児医療センター、2015年茨城県立こども病院小児外科部長就任。小児外科・新生児外科一般のほか、呼吸器外科(気道手術)や悪性腫瘍手術において主力となり、二分脊椎外来や排泄外来および医療的ケア児外来でも活躍している。同院が「性暴力被害者支援のための茨城県のネットワーク」の参加に合わせ、身体的診察および外傷治療を担当。日本外科学会専門医、日本小児外科学会専門医・指導医、日本内視鏡外科学会技術認定医(小児外科部門)、日本外科学会、日本小児外科学会、日本内視鏡外科学会、日本小児救急医学会、日本周産期・新生児医学会、日本小児血液・がん学会、日本小児ストーマ・排泄・創傷管理研究会に所属。2003年にガーナ人の夫と結婚、3人の娘の母でもある。


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