筋肉の硬直やけいれん
~スティッフパーソン症候群(徳島大学病院 松井尚子准教授)~
筋肉のこわばりやけいれんが生じるスティッフパーソン症候群(SPS)。近年、カナダ人歌手セリーヌ・ディオンさんが公表して話題になった。昨年、全国初の疫学調査を実施した徳島大学病院(徳島市)脳神経内科の松井尚子准教授は「外見だけでは分かりにくいSPSに対する理解が深まってほしい」と話している。
スティッフパーソン症候群の概要
◇症状には波がある
こわばりや硬直を意味する英語の「スティッフ」。胸や背中、腹などの体幹や手足の筋肉が硬直したりけいれんを起こしたりするのが特徴だ。痛みを伴い、人によっては話すことが困難になる場合も。「筋肉を緩める働きを持つ、脳や脊髄の神経がうまく働かないために生じる自己免疫疾患です」
原因は、筋肉の動きの制御を助ける神経伝達物質「GABA(ギャバ)」を阻害する自己抗体が作られることとされる。判明している抗体は、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)に対するもの。また、グリシン受容体(GlyR)に対する自己抗体も知られているが、いずれの抗体も検出されない症例もある。
症状は一定の時間を置いて起きたり収まったりと「波」がある。何らかのきっかけで誘発されると考えられており、「ドアがバタンと閉まる音で緊張し、しばらく筋硬直が続くケースもあります」。
◇早めに脳神経内科へ
疫学調査では、2015~17年の国内患者数は257人で、罹患(りかん)率は人口10万人当たり0.2人と推定。GAD抗体陽性は女性に、GlyR抗体陽性は男性に多く、それぞれの発症年齢の中央値は51歳と57歳だった。
GADの抗体を持つ患者の場合、1型糖尿病や慢性甲状腺炎などの病気を合併するケースも多く、合併症の治療も必要となる。SPSに対しては、症状を和らげる治療が主体だ。
「血液製剤から作られる静脈注射剤(免疫グロブリン製剤)や血液から有害物質を取り除く血液浄化療法、経口ステロイド剤や免疫抑制剤、てんかん発作薬などが用いられています」。海外では、抗がん剤の一つリツキサンが使用されるケースもあるという。
薬物治療以外では、筋肉の動きをスムーズにするためのリハビリが行われることも。治療がうまくいけば、仕事など日常生活を通常通り送れるが、現時点で完治は難しい。
現在、SPSは難病に指定されておらず、治療方針も確立していない。「昨年の疫学調査が後押しになれば」と松井准教授は期待を寄せ、「気になる症状があれば、早めに脳神経内科を受診してほしい」と呼び掛けている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2024/11/18 05:00)
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