治療・予防

貧血や感染しやすさ
~高齢者に多い骨髄異形成症候群~

 赤血球や白血球、血小板などの血液細胞を造る造血幹細胞に異常が起きる病気が「骨髄異形成症候群(MDS)」だ。症状は多様で、めまいやだるさ、動悸(どうき)などといった貧血症状をはじめ、肺炎などに感染しやすくなったり、出血が止まりにくくなったりする。MDSは加齢とともに増加し、高齢者に多いとされている。

 造血幹細胞に異常が生じると、造られる血液細胞の形態が異常になったり、機能が不完全になったりする。さらに芽球と言われる未成熟の細胞が無秩序に増殖したりする。

骨髄異形成症候群の症状は多様だ=ブリストル マイヤーズ スクイブ患者向け資材「骨髄異形成症候群(MDS)を知っていますか?」より

骨髄異形成症候群の症状は多様だ=ブリストル マイヤーズ スクイブ患者向け資材「骨髄異形成症候群(MDS)を知っていますか?」より

 白血病発症のリスクも

 MDSは年間に1万人程度発症する。長崎大学原爆後障害医療研究所の宮﨑泰司教授(血液内科学)は「症状や病像が非常に多様だからこそ、症候群と言われる。タイプによって異なるが、急性骨髄性白血病に移行する可能性もある」と説明する。

 MDSの検査は問診や血液検査に加え、腰の骨や胸の中央にある骨から骨髄液を採取して調べる。検査を基に、低リスクの患者と高リスクの患者に分けて治療方針を立てる。「低リスクは病気の進行がゆっくりしているが、高リスクでは進行するのが速い」。進行を完全にストップする治療薬はない。唯一、完全に治すことができるのは造血幹細胞移植だけだ。しかし、宮﨑教授は「造血幹細胞移植は副作用が大変大きく、すべての患者に実施できる治療ではない。低リスクでは積極的に行うことはしない」と話す。移植を受ける患者の割合は約5~10%にとどまる。

長崎大学原爆後障害医療研究所の宮﨑泰司教授

長崎大学原爆後障害医療研究所の宮﨑泰司教授

 ◇背景に加齢

 MDSの発症リスクは、抗がん剤治療や放射線治療を受けた人で上昇する。「治療関連MDS」と呼ばれるタイプで、MDS全体の10%程度とされている。最も多いのは原因がよく分からない「初発MDS」タイプで、高齢者に多い。なぜだろうか。

 宮﨑教授は「加齢によって遺伝子の変異が蓄積されて発症するのではないか」とする一方で、「変異している遺伝子は分かってきているものの、遺伝子変異がどういった機序(メカニズム)でMDSを起こすのか、どのくらいの遺伝子変異が発症に結び付くかなど分かっていないことが多い」と指摘する。40歳より若い人の発症は非常にまれなので、背景に加齢があることは間違いないだろう。

 体がきつかったり、息切れをしたりする高齢者がかかりつけ医を受診すると、鉄分やビタミン不足がもたらす貧血であることがよくある。しかし、鉄分もビタミンも足りているのにもかかわらず、貧血が改善しないケースもある。宮﨑教授は「単なる貧血で説明が付かない時は、専門医に診てもらった方がよい」と勧める。

 ◇新薬が登場

 治療薬は低リスクと高リスクによって異なる。低リスクの患者に対しては、赤血球のもとになる細胞に働き掛け、赤血球を増やして貧血を改善する薬や白血球、血小板を増やす薬などがある。高リスクの場合は、体に負担がかかる薬を用いることもある。

 宮﨑教授は「効果的な薬が幾つかある。ただ、それぞれの薬に特徴があり、すべての患者に効くというわけではない。患者の状態に応じて薬を選択している」とした上で、「標準的な治療薬でいったん貧血が改善しても、薬に対する反応が鈍くなり、効果が失われていくこともある」と言う。

 新薬の開発も進んでいる。2024年5月に国内で販売が開始された新薬について、宮﨑教授は「特定の遺伝子変異があるタイプ、鉄芽球性貧血などへの効果が高いことが知られている。上市されて日が浅いが、今後、臨床での経験が蓄積されていけば、重要な選択肢になるかもしれない」と指摘する。(鈴木豊)

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