多発性骨髄腫
~骨髄中の細胞ががん化(近畿大学 松村到教授)~
血液がんの一種の「多発性骨髄腫」。国立がん研究センターの統計(2018年)によると、10万人当たり約6.1人と発症頻度は高くないが、50歳くらいから加齢に伴い発症数が増える。病気と治療について、近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)血液・膠原(こうげん)病内科の松村到教授に聞いた。
骨髄は骨の中央にあり、血液を作る働きをしているが、多発性骨髄腫はその中の「形質細胞」ががん化する。原因は不明だ。形質細胞は本来、細菌やウイルスに対する多種類の抗体を作る働きを担うが、がん化した形質細胞(骨髄腫細胞)は「Mタンパク」という異常なタンパク質しか作らなくなる。Mタンパクは腎機能を低下させたり、血液をドロドロにしたりする。
骨髄腫細胞が増殖すると、正常な血液細胞を作る働きが阻害され、貧血を招く。免疫力も低下し、感染症にかかりやすくなる。骨髄腫細胞は骨を壊す働きを高め、骨のカルシウムが溶け出し、高カルシウム血症や骨折を招く。
「ちょっとした動作のはずみで腰や背中の圧迫骨折が起こり、痛みに悩まされる患者さんが多いです」
◇近年は治療成績向上
現在も薬剤だけでは治癒しないが、この十数年で新たな治療薬が登場し、病後の経過(予後)は大きく改善している。「予後の中央値(患者の半数が生存する期間)が1980年代は約3年、90年代には約5年でしたが、現在は約10年に延びています。治療により病気の進行や症状をコントロールしながら、長く付き合う病気になってきました」
新規の薬には、骨髄腫細胞のタンパク質の分解を阻害して自滅させる「プロテアソーム阻害薬」、骨髄腫細胞を攻撃するとともに免疫を活発化させる「免疫調整薬」、骨髄腫細胞に特有のタンパク質を標的に攻撃する「抗体薬」などがある。65歳未満を目安に、十分な体力や内臓機能のある患者は、大量の抗がん剤投与と自分の「造血幹細胞(血球を作り出す元になる細胞)」の移植を組み合わせた治療が有効だ。
病状は寛解(症状が一時的に治まった状態)と再発を繰り返す。「病気と前向きに向き合いつつ、治療を継続することが大事です。例えば、寛解時には運動も積極的にしてほしいですが、再発時の骨折しやすい状態では運動を控える、免疫不全の状態では感染症対策を徹底するなど、日常生活の管理が必要です」と松村教授は助言している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2023/02/02 05:00)
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