治療・予防

脳卒中後の歩行速度低下
~左右のまひで異なる要因(東北大学病院 関口雄介主任)~

 脳梗塞脳出血に代表される脳卒中には、後遺症の一つとして歩行速度の低下があり、さまざまな方法で歩行訓練を行う。東北大学病院(仙台市青葉区)リハビリテーション部の理学療法士、関口雄介主任と同大大学院医学系研究科の海老原覚教授らの研究グループは、障害を受けたのが右脳か左脳かで歩行速度低下の要因に違いがあることを突き止め、将来的な歩行訓練の個別化につなげたいという。

脳卒中の後遺症で歩行速度が低下するケースも

脳卒中の後遺症で歩行速度が低下するケースも

 ◇歩行の違いを解析

 脳卒中により脳がダメージを受けると、記憶や思考、言語などをつかさどる高次脳機能や、運動、感覚などあらゆる機能に障害が残り、歩行の能力が低下するケースが多い。

 歩行速度低下もその一つ。「一般に健康な人の半分程度の速度になる場合もあります」と関口主任。これまで、脳卒中により半身にまひが生じた患者の歩行速度低下については多くの研究が行われてきたが、関口主任は長年、「ダメージを受けた脳の部位が左右どちらかにより、歩き方が異なる点が気になっていました」と振り返る。

 そこで研究グループは健康な人20人、脳卒中による右脳損傷(左まひ)患者32人、左脳損傷(右まひ)患者38人に7メートルほど床の上をはだしで歩いてもらい、全身の33カ所に貼り付けたマーカーを、天井付近に設置した複数のカメラで360度撮影。3次元動作解析装置を使い、脚の関節の協調運動を解析した。

 ◇右まひ患者と健康な人で類似

 解析の結果、右まひ患者と健康な人は歩行速度と関係する要因が似ていることが分かった。具体的には、歩行時に後ろにある右脚で地面を蹴り出す時に各関節が連動して力を発揮するタイミングと、前に出した左脚の指先を上げる力が歩行速度と関係していた。右脚が歩行の推進の役割を果たし、左脚は歩行を調整し安定させる役割を担っていた。

 一方、左まひ患者では協調して発揮する力のタイミングと歩行速度に関係はなく、後ろにある左脚で蹴り出す時に前に出した右脚の指先を上げる力と、左脚で蹴る力が関係していた。右まひ患者や健康な人と異なり、左まひ患者は左脚が歩行を推進させ、右脚が調整し安定させていた。脚の役割が違う原因について研究グループでは、まひがある左脚は膝を曲げる力が大きく、その分、安定性が低下し、まひがない右脚が安定させる役割を担ったと推察する。

 「今後は脳卒中でダメージを受けた脳が左右どちらかにより、個別化された歩行訓練プログラムや装具の開発などに役立てられることに期待したい。より科学的に効果があるリハビリを患者さんに届けたい」と関口主任は話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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