インタビュー

痔の患者、半数は女性
恥ずかしがらず受診を

痔で受診する女性増加
 いぼ痔(じ)や切れ痔、痔瘻(じろう)など肛門の病気に苦しんでいる人は多い。しかし、家族や周囲はもちろん、薬剤師や医師にもなかなか相談しにくい面があり、特に女性の場合は抵抗感が強いようだ。肛門関連の疾患を専門とする「日本臨床肛門病学会」理事長で、東京・銀座で専門クリニックを開業している岩垂純一氏は「現在、このクリニックを訪れる患者は男性と女性が半々だ」と指摘した上で、「痔瘻のように手術が必要な場合もあるし、まれにがんが隠れていることもある。重症化する前にぜひ、専門医に診てもらってほしい」と呼び掛けている。

 ◇痔瘻は手術が必要

 「(いぼ痔や切れ痔でも)重症化し痛みが激しくなって初めて治療を受けようと思い、受診する医療機関を探す患者も少なくない。このため、症状に苦しんでいても、治療に至らないケースもある」。どうにか治療を受ける決断をしても、肛門自体が機能と構造の両面で非常にデリケートな臓器であることを忘れてはならない。岩垂理事長は「十分な専門知識と経験を持つ専門医の治療を受ける必要があり、病院選びは大切だ」と強調する。

「日本臨床肛門病学会」の岩垂純一理事長
 痔には次のような種類がある。強い負荷を受けた肛門の内側に腫れが生じる「痔核(じかく)」(いぼ痔)。硬い便や強い下痢の圧力で肛門に裂傷が生じる「裂肛」(切れ痔)。肛門内側のくぼみに細菌が入り込んで感染し中にうみがたまる「肛門周囲膿瘍(のうよう)」に始まり、肛門内部から肛門の外側までうみの管が生じる「痔瘻(じろう)」に大別される。

 最も重症なのは痔瘻で、強い痛みを伴うため、比較的早めに受診する患者が多いという。治療は、原則として手術になる。「肛門内部から外側までの管を切り開けば痔瘻自体は治る。ただし、肛門は便意を感じたり、排便を制御したりするための非常に敏感な感覚器官でもある。手術によってこうした機能を低下させてしまうと、患者は大きな問題を抱えてしまう。十分に経験を積んだ専門医による執刀が望ましい」と岩垂理事長は話す。

 ◇生活習慣、大きく影響

 一方、痔核や裂肛は一時的に症状が出ても、自然に回復したり、薬局で自由に購入できる薬で治療したりすることも可能だ。ただ、岩垂理事長は「確率は低いが、痔核と思っていたら直腸や肛門のがんだった、という事例もある。一度は専門医の診察を受け、他の怖い病気でないことを確認してもらいたい。その後は、かかりつけ医に相談したり、市販の治療薬で対応したり、患者側の都合で選んでもよい」とアドバイスする。

 そうはいっても、痔核や裂肛は、運動不足や食物繊維の不足などの食生活の偏りなど生活習慣の影響を大きく受ける。対症療法にとどまっていると、一時的に原因となる慢性の便秘下痢などの症状が改善したとしても、再発を繰り返す恐れがある。

 「最も良い方法は、専門医の指導を受けながら偏りのない食生活や定期的な運動を心がけるなどの生活習慣を改善することだ。ただ、治療薬メーカーのホームページなどでも同様の知識は得られるので、専門医にかからなくても何とか対応している人もいるだろう」。岩垂理事長はこう分析する。

 ◇少ない肛門専門医

痔にならないようにするための心掛け
 患者側にとって困る問題もある。以前は認められていた「肛門科」を看板に明記することが認められなくなったことだ。「肛門内科」「肛門外科」は標榜(ひょうぼう)できるが、内科と外科の両面を持つ疾患だけで、なかなか分かりにくい。さらに、標榜すること自体は医師免許があれば、どの科でもできるという事情もある。

 患者の頼りになるのは、一定の経験を積んだ医師に認められる専門医資格だろう。これまで肛門関連の専門医は「大腸肛門病学会」に集まっていた。しかし、同学会の会員の多くは大腸関連の疾患を専門としており、肛門関連の専門とするのは1割超にすぎないという。

 ◇日本臨床肛門病学会HPで情報

 岩垂理事長は「大腸肛門病専門医だと思って受診しても、その医師が大腸がんや大腸内視鏡を専門としている可能性もある」と危惧。より肛門関連疾患に特化した専門医を育成するため、研究会を経て2016年に「日本臨床肛門病学会」を設立した。18年から独自の専門医制度として「日本臨床肛門病学会 技能認定制度」を始めている。

 同学会はホームページhttp://plaza.umin.ac.jp/~rinkoken/)で、都道府県別で会員名と所属医療機関を公開。患者自身が身近な専門医を探すための情報を提供している。(喜多壮太郎・鈴木豊)


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