歩行困難の可能性も
毛細血管拡張性運動失調症
幼い子どもの約10万~15万人に1人が発症する「毛細血管拡張性運動失調症(AT)」は、2歳ごろからふらつきが出始め、最終的には歩けなくなることもある難病だ。現状では対症療法しかないため、今年2月、新たな治療法を探る国内初の研究会が発足した。研究会代表世話人を務める東京医科歯科大学(東京都文京区)茨城県小児・周産期地域医療学講座の高木正稔准教授は「症状の進行を抑制するだけではなく、根本的な治療法の開発も目指したい」と意気込む。
幼い子どもが発症、歩けなくなることも
▽高い発がんリスク
ATは、体の設計図であるDNAを修復する遺伝子「ATM」の異常によって発症する。高木准教授は「ATは運動機能に関わる小脳が萎縮し、筋肉の調節がうまくいかなくなる病気です。2歳ごろからふらつきが見られ、次第に歩くことが困難になります。同時に物を飲み込む、目を自由に動かす、言葉を話すことが困難になります」と話す。6歳くらいまでに、目が充血したように結膜の毛細血管が拡張する症状も表れるのが特徴だ。
免疫力も低下するが、飲み込む力が衰えて、食物などが肺に入ってしまうと、呼吸障害を伴う重い肺炎を起こし、命を落とすこともある。
さらに、「原因遺伝子であるATMはがん抑制遺伝子なので、この遺伝子に異常がある患者さんの10~30%ががんになる可能性があるといわれています。特に多いのがリンパ腫と白血病です」と高木准教授。
▽遺伝子治療も視野
現時点では、ウイルスや細菌の感染を防ぐ免疫グロブリンの投与や、感染時の抗菌薬投与、呼吸器のリハビリテーションによる誤嚥(ごえん)の防止など、対症療法しかない。
新たに発足させた「毛細血管拡張性運動失調症研究会」について高木准教授は「まず、海外で行われている少量のステロイドによる治療や免疫不全の改善を目的とした造血幹細胞移植の研究を進めています。長期的には、根治が期待できる遺伝子治療法の確立を目指しています」と説明する。
国内ではATの治療経験を持つ医師が少ないことも問題だ。患者の中には脳性まひなどと誤診されているケースもあるとみられている。高木准教授は「ATの可能性があると感じたら、専門医の診断を受けてほしい」と呼び掛けている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2019/01/23 06:00)