一流に学ぶ 「美と健康」説くスポーツドクター―中村格子氏

(第12回)
セルフケアの方法広めたい
尽きない「妄想」の果てに

 ◇整形外科の診療の未来は

 ここ数年、「筋膜」は今まで知られていなかった体の組織の一つとして、急に注目を集めるようになった。
 「筋肉や神経の表面には、筋膜という薄い膜があって、長いラインでつながっているのですが、そこには無数の神経と細い血管が張り巡らされていて、筋肉に栄養を送ったり、信号を送ったりして体が動いているんです」

 姿勢が悪くて筋膜ラインが部分的に引っ張られると、その部分の水分が失われてしまう。「実はいろんな痛みや不調は、神経筋膜の水分が足りないことで起きていることが多いんです。メルトメソッドの簡単なケアで、筋膜に水分を呼び込んで痛みや不調を取り除くことができるので、いろんな治療に応用できると思います」

 セルフケアを継続してもらうためのサポートシステムも検討中だ。 

 「『先生がいま教えてくれた運動、忘れちゃうから後で見られるところが欲しい』ってよく言われるんです。テレビ番組とかユーチューブでもいい。毎回テーマを決めて、1日1ストレッチずつ配信するとか、格子チャンネルみたいのを作ってもいいかなとか、アイデアはたくさんあるんです」

 今年4月から遠隔診療(オンライン診療)が保険適用になり、患者が医療機関に足を運ばなくても、スマートフォンやパソコンのビデオチャットなど、インターネットを通じて、診察が受けられるようになった。
 「VR(バーチャルリアリティー)を使ったオンライン診療などのように、離れた場所でも、個別にリハビリができる環境が10年以内にはできると思うんです」

メルトメソッドの考案者、スー・ヒッツマンさん(左)と=2016年、ニューヨーク
 中村氏は、整形外科はここ20年で大きく変わった歯科と同じ道をたどるのではないかと予測している。「歯科は虫歯ができたら治療する、ではなく、虫歯にならないよう予防に力を入れるようになりました。整形外科も他力本願の治療ではなく、セルフケアにつながる価値のあるリハビリが重要になってくると思うんです」

 講師を務めるNHKのテキストは、台湾語版も出版されている。

 「クリニックに台湾の人が来て、『先生、台湾で人気あるよ』と言われて、びっくりしました。日本は世界一の長寿国だし、健康法を輸出するのもいいかもしれない。いろいろ楽しいことを考えてると、妄想が止まらないんです」

 「アジアの格子先生」が、世界を飛び回る時代が来るかもしれない。(ジャーナリスト・中山あゆみ)

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◇中村格子氏プロフィルなど

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一流に学ぶ 「美と健康」説くスポーツドクター―中村格子氏