一流に学ぶ 難手術に挑む「匠の手」―上山博康氏

(第3回)駆け落ちから結婚へ=初恋破れ、その後運命の出会い

 ◇すさんだ心、一条の光

 失恋の痛手から寝たきりのような状態になった上山氏を、大学のスキー部員らが心配して訪ねてきてくれた。

 「自分の人生で初めて弱みを見せたのが、この時でした。それまでの自分は、誰にも負けたくないから友達なんて一人もいなかった。でも、弱みを見せた時、初めて友達ができました」。妻になる女性と出会ったのも、この頃だった。

 スキー部の活動資金を稼ぐためにダンスパーティーの券を売り歩いていた時、たまたま飲み会の2次会で知り合い、券を買ってくれた。運命の出会いだった。上山氏は「本当に好きになってくれる人なんかいない」とひねくれていたが、同氏の妻は初対面の時、「この人と結婚することになる」と思っていた。

 上山氏は大学3年。「奥さんは1つ歳下だったが、当時大手商社で働いていた。食事をごちそうしてもらい、車まで買ってくれました」。交際から2年ほどたつと、駆け落ち同然で一緒に暮らし始めた。

 「その頃の僕は、近寄ってくる女はすべて医者という肩書を狙ってくるのだと警戒していましたけど、奥さんは違った」

 2人でドライブをしていた時、道端で車にひかれ瀕死(ひんし)の状態になっている犬を見つけた。上山氏は血だらけで服が汚れるのも気にせず、抱きかかえて動物病院に連れて行った。その姿を見て、同氏の妻は最終的に結婚を決めたのだという。

 「すさんでいた僕に一条の光のように尽くしてくれました。僕は成績が極端に良かったが、育ってくる過程で、とっくに学習していなければならなかった人間関係は学ぶことなく大人になってしまった。社会人としての常識は、すべて奥さんが教えてくれました」(ジャーナリスト・中山あゆみ)


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