一流の流儀 「信念のリーダー」小久保 裕紀WBC2017侍ジャパン代表監督

(第7回)4番の重責と初優勝
最大の壁乗り越えて

 ところが、このシーズン、4番に座った小久保さんは大きな壁に当たり、苦しみぬいた。前年に痛めた肩の影響もあり、極度の打撃不振に陥った。オールスター前には打率が2割以下に低迷。王貞治監督に「4番を外してほしい。このままでは自分が足を引っ張って優勝を逃すかもしれない」と直訴したが、「俺はお前を外さない。だいたい、勝敗は俺に責任がある。お前は自分の調子を戻すことだけ考えろ」と言われ、1年を通して4番を任された。

初の日本一に輝いたダイエーナインの祝勝会=右端が王監督
 「その時、自分はつらかったので逃げていたのですが、逃げないで真正面からぶち当たるということを学びました。優勝した後半戦だけを見れば、スランプから抜け出して打率3割を打てたのです」

 現役を引退してから振り返ると、その時以上の高い壁はなかったと言う。「いつも、あの時に比べたらへっちゃらだ、と思えるのです」。現役時代の王さんや長嶋茂雄さんには、調子が悪いから打順を下げるとか、休養して調子が戻ってから出てくるなどという選択肢はなかった。王さんは監督としてもぶれなかった。

 「『若い時の苦労は買ってでもしなさい』という言葉があります。それは、若い時に自分の前に高い壁が立ちはだかったら、斜めから登るのではなくて、はね返されてもいいから、若いエネルギーで正面からぶち当たって、その壁を乗り越えようとした方が後の景色が変わるという意味だということを学びました」

 小久保さんは、どうやってスランプから脱出したのだろうか。

 自信がないまま、ひたすら打席に立ち続ける日々。自信が持てないから、球場に行くのが怖い。自信を取り戻すために必死で練習をしたが、成績は上がって来ない。オールスター休みの間、デッドボールを受けた手が腫れて、1度もバットを振れないでいた時に先輩が一言、「ボールを迎えに行って近づいているよ」とアドバイスをくれた。「それをきっかけに、打席での立ち方を少し変えたところ、トンネルから抜けました」

 リーグ優勝を決めた日本ハム戦では大きな同点本塁打、日本シリーズでもホームランを放ち、日本一に貢献した。本塁打と打点はチームトップの成績を残し、見事に4番の重責を果たした。(ジャーナリスト/横井弘海)

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一流の流儀 「信念のリーダー」小久保 裕紀WBC2017侍ジャパン代表監督