一流の流儀 「海に挑むヨットマン 」 白石康次郎 海洋冒険家

(第6回)哲学はいつも機嫌良く
平常心の大切さ

チームで過酷なレースに挑む

 白石康次郎さんのイメージは、いつも明るく元気で前向きな人だ。妻の海夕希さんは「一緒にいて飽きないですよ」と言う。それが根っからのキャラクターであることは間違いなさそうだ。その白石さんは「冒険家として、常に自分の機嫌を良くしておくことの大切さを感じています」と話す。

 ◇人知が及ばぬ海

 「海というものには、人知が及ばない。しかも、地球を一周するレースは2000時間もかかります。不確定要素が多いし、実力があっても、資金力があっても、必ずしも勝てると限らない。特に『ヴァンデ・グローブ』のような単独レースは、一人ですから、一度に一つのことしかできません。常に何をすべきか、判断しなければならないのです」

 これまでに、単独でヨットに乗って世界一周に成功したセーラーは200人に満たないという。「ヴァンデ・グローブ」を完走する意味は何か。「それは死に物狂いでやった結果の偉業に違いないのです」。白石さんの言葉には迫力があった。

 では、常に機嫌を良くするためにはどうしているのか。

 「ヴァンデ・グローブ」のヨットには、聖人マザー・テレサと思想家・実業家の中村天風の本を持ち込んだ。海の上は自分を見詰め直すのに適している。自分が何者であるのかを確かめようと、ずっと自問自答する。結論が「いつも機嫌良く」という白石さんの哲学だ。

出港地で子どもたちが白石さんを応援

 「言い換えるなら、『平常心』でいることの大切さを学びました。平常心でいることで良い判断ができる。何かが起きた時には、すぐにその問題に対処するのではなく、まず自分の機嫌を直します」

 精神面だけではなく、体が不調を訴えるときもあるだろう。白石さんは「体調不調の時は、自分で判断をしないことも大事です。ヨットにはコンピューターを積んでいますから、機械に判断させることもできますよね」とあっさり言う。

 ◇チームへの信頼感

 単独レースといっても、実は一人で戦うわけではない。チームを組み、完璧な準備やサポートがあってこそ成り立つ。「ヴァンデ・グローブ」のレースには、白石さんを支える「チーム康次郎」の存在があった。欧州で活躍するプロフェショナルのサポートクルーから、次代を担うであろう日本人の若者まで、いわば多国籍軍である。

 多様なバックグラウンドと価値観を持つメンバーの構成は、難しいように思える。「僕はチームを信頼しています。けんかをすることもなく和気あいあいで、他のチームのメンバーからも『うちに来たい』と言われました」。

ヨットの装備を点検する白石さん

 白石さんは自ら率先して作業をする。メンバーがちょっとしたミスを冒しても決して責めない。白石さんは「『恨みは募るから』と『論語』に書いてあるでしょう。そもそも、いつも皆と楽しく遊びたいのです」と笑った。

 平常心に加えて、過酷なレースを完走するためには、スタート地点に立つための実力、資力に加えて、運を味方につけなければ良い結果は訪れないというのも持論だ。

 「よく神に祈ると言いますね。でも、僕は神様にお願いするのではなくて、神と同じようにならないと成功できないと思っています。神様は人間に何もしないで、ただニコッと笑って見ているだけ。そうありたいですね」(ジャーナリスト/横井弘海)

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