「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

第8波の流行はいつまで続くのか (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第56回】

 ◇XBB.1.5という新たな変異株リスク
 もう一つ、第8波の流行に影響するリスクとして、米国で22年12月から急増しているXBB.1.5という新たな変異株があります。

 この変異株はオミクロン株のBA.2系統で、米国では23年1月初旬の時点で、検出されるウイルスの約4割を占めています。免疫逃避(ワクチンや感染による免疫から逃れること)を起こすだけでなく、ヒトの受容体に結合しやすい変異もあるため、感染力の増加が疑われています。ただし、米国で感染者数の顕著な増加は今のところ見られていません。

 日本国内でもXBB.1.5の感染者は数人ですが確認されており、これから増加していくと予想されます。そのときは、第8波の流行が長期化することも考えておかなければなりません。

 インフルエンザ流行の影響は
 インフルエンザも3年ぶりの国内流行が23年1月から始まっており、第8波と同時流行を起こす可能性が高くなっています。どちらも発熱を起こす病気であるため、発熱外来などが逼迫することは間違いないでしょう。

 ただし、インフルエンザの流行が拡大すると、新型コロナの流行が一時収束する可能性もあります。たとえば、オーストラリアでは22年6月にインフルエンザが大流行し、その間は新型コロナの感染者数が減少しました。米国でも12月にインフルエンザの流行が発生していますが、この間、コロナの感染者数は少なくなりました。どちらも呼吸器感染ウイルスなので、ウイルス同士が干渉し、一方のウイルスの流行を抑えるという説もあります。

 なお、オーストラリアではインフルエンザの流行が22年6月末で収束し、7月からは新型コロナの流行が再燃しました。日本でもインフルエンザの流行に伴い、第8波が一時収束する可能性もありますが、そのときはインフル後のコロナ流行再燃を考えておかなければなりません。


 23年の日本は過去最大の第8波の流行で始まりました。今後、さまざまな要因が影響するでしょうが、春までには第8波の流行が収束すると想定されます。その時点になれば、多くの国民がワクチンや自然感染による新型コロナへの免疫を獲得しており、本格的な感染対策の緩和を進めることができるはずです。ようやく、長いトンネルの出口が見えてきました。(了)


濱田篤郎 特任教授

濱田篤郎 特任教授

 濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏

 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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