「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

今夏の流行はどこまで拡大するか (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第66回】

 ◇注意報、警報の必要性

 このように、現在の定点報告数の発表だけでは、患者数の増減は分かっても、流行全体の状況を把握するのはなかなか難しいため、インフルエンザのように、注意報や警報を厚生労働省が発令すべきとの意見も出ています。インフルエンザでは、各自治体の定点報告数が10人を超えると注意報、30人を超えると警報が発令され、その自治体の住民に予防対策の強化などを促しています。

 こうした対応が新型コロナでも導入されれば、早めの予防対策につながり、流行拡大を抑えることができるでしょう。しかし、新型コロナで注意報や警報になる報告数を決めるには、まだデータが足りないのが現状です。また、新型コロナでは医療提供の状況なども含めて総合的に検討しなければならず、インフルエンザと同様な基準を作るのは容易でありません。さらに、新型コロナで注意報、警報を発令した場合、どんな対応を国民に求めるかも課題です。

 なお、厚生労働省は8月9日に自治体向けに、「新型コロナウイルス感染症に関する住民への注意喚起等の目安について」を発出しました。(https://www.mhlw.go.jp/content/001133038.pdf)。

 ◇流行の現況と今後の予測

 それでは、現在の厚生労働省などの情報を基に、23年夏の流行を解析するとどうなるでしょうか。

 国内で夏の流行が発生していることは明らかです。この原因には、厳しい暑さのため冷房の利いた屋内にとどまる時間が長くなったことや、過去のワクチン接種や感染による免疫が低下していることが挙げられます。現状で感染者数は1日10万人以上が発生していると考えられますが、重症化する人はまだ少なく、医療が逼迫している状況にはなっていません。

 7月31日~8月6日の定点報告数は前週に比べて横ばいでしたが、流行がピークに達したわけではないと思います。現在、国内はお盆シーズンを迎え、移動や接触の機会が増えています。厳しい暑さも8月いっぱいは続くでしょう。このため、9月上旬までは夏の流行が続くと考えておいた方がよいと思います。

 では、昨年夏のように、医療の逼迫が生ずる大きな流行になるでしょうか。昨年の大流行は感染力の強いオミクロン株のBA5型が拡大したためで、今年もEG.5型という新しい変異株が増えてきています。この変異株の詳細はまだ不明ですが、感染力が強ければ、今年の夏も感染者数が大きく増加する可能性はあります。

 今後はEG.5型の動向に注目して、今年の夏の流行を見ていく必要があると思います。(了)

濱田特任教授

濱田特任教授


 濱田 篤郎(はまだ・あつお)氏
 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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