「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~
今冬の感染症流行予報
~コロナ再燃と冬の感染症の復活~ 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第11回】
新型コロナウイルス感染症の流行が発生してから約5年が経過しました。その間にコロナ以外の多くの感染症の流行が抑えられてきましたが、これから迎える冬には、インフルエンザやノロウイルスによる食中毒など、冬の感染症がコロナ前の勢いで復活することが予想されます。これに加えて、コロナも再燃する可能性が高く、今冬は多種の感染症が同時流行する中、予防対策をより強化する必要があります。
◇インフルエンザが流行期入り
厚生労働省は11月8日にインフルエンザが流行期に入ったと発表しました。定点医療機関からの報告患者数が、目安である1.0人を超えたことによります。患者数はまだ少なく、大きな増加はこれからですが、今冬はインフルエンザが本格的に復活することになるでしょう。
観光客らで混雑する冬の風物詩「さっぽろ雪まつり」(2024年2月、札幌市中央区)
コロナが流行してから約2年にわたり、インフルエンザの患者はほとんど発生しませんでした。これは、コロナ対策で国際交通を止めたことや、手洗いやマスク着用などの予防対策を強化したためです。
そして、2023年5月、コロナが感染症法の5類に移行されると、9月からインフルエンザの患者数が増え始め、12月初旬にピークを迎えました。その後、患者数は一時減少しますが、24年2月に2回目のピークがあり、春の到来とともに収束していきました。こうした長期にわたる流行の原因としては、患者が発生しなかった間に、私たちのインフルエンザへの免疫が低下したためと考えられています。
◇例年のパターンに戻るか
24年は11月からの流行期入りで、23年より遅くはなっていますが、コロナ前に比べると1カ月ほど早いようです。これは、インフルエンザへの免疫が、まだ低下しているためでしょう。南半球のオーストラリアでも、今年は6~9月の冬季にインフルエンザの流行が発生し、コロナ前よりも患者数が大きく増加しました。
このような状況から、今冬も日本ではインフルエンザの流行が長引き、患者数が増える可能性があります。インフルエンザのワクチン接種は10月から開始されており、今からでも間に合いますので、できるだけ接種を受け、免疫を高めておくようにしてください。
◇ノロウイルスの流行も復活
ノロウイルスによる下痢症も、冬の感染症として毎年のように拡大してきましたが、コロナが発生してからは、しばらく抑えられていました。このウイルスは経口感染が主で、汚染された食品を食べてうつるルートがよく知られています。これに加えて、患者が触ったドアノブなどにノロウイルスが付着し、それを健康な人が手で拾い、無意識に口に運んで感染するルートが多いようです。
コロナ対策として手洗いを強化していた期間は、後者のルートを遮断できたので、ノロウイルスの感染を減らせました。さらにマスクを着用していると、手で口を触る行為が減らせるので、これもノロウイルスの流行を抑えるのに貢献したと思います。
こうしたコロナの予防対策が緩和されたことにより、今冬はノロウイルスによる下痢症も増加傾向にあります。こちらも流行がなかった期間に免疫が低下したため、患者数はコロナ前よりも増える可能性があります。予防対策としては、頻回に手洗いをすることです。ノロウイルスはアルコール消毒が効かないので、流水(温水でも可)で手を洗うようにしましょう。
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(2024/11/21 05:00)