「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~
今冬の感染症流行予報
~コロナ再燃と冬の感染症の復活~ 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第11回】
◇コロナの本格的流行は冬
このように、今冬はインフルエンザやノロウイルスの拡大が予想される中で、コロナの再燃も避けられない状況です。呼吸器感染ウイルスの拡大しやすい時期は冬であることを、本コラムでも何回かお伝えしてきました。
コロナの冬の流行は、ここ数年を見ると、北半球の温帯全体で11月末ごろから始まっています。そして、欧米ではクリスマス後、日本ではお正月明けがピークになるようです。
では、今冬はどれだけ拡大するでしょうか。これは変異株の状況や、ヒトの免疫状態に影響されます。
◇新たな変異株XECの発生
コロナの変異株については、現時点でオミクロン株のXEC型が世界的に拡大傾向にあります。XEC型はJN.1系統の二つの変異株(KS.1.1とKP.3.3)が結合したもので、今年6月にドイツで確認され、その後、欧米や日本で増加してきました。米国CDCの11月上旬の報告(図)では、XEC型が変異株の28%を占め(棒グラフの一番右)、日本も東京都の調査では10月末までに25%に増加しています。このままの状況が続けば、今冬の主要な変異株はXEC型になるでしょう。
米国での変異株の動き(実績値と予測値)20247/21~11/9=米疾病対策センター(CDC)ホームページより
XEC型の詳しい特徴はいまだ分かっていませんが、重症度に変化はなく、免疫逃避が今までの変異株よりやや起こりやすいとされています。また、JN.1系統の二つの変異株が結合したものなので、現在使用中のコロナワクチン(JN.1系統のウイルスで製造)も効果があると考えられています。
こうした変異株の状況から判断すると、今冬のコロナの流行は、あまり大きく拡大することはないようです。
◇基本的な予防対策を
一方、ヒトの免疫状態については、今までよりも低くなることが予想されます。免疫は時間経過とともに減衰するのに加え、日本では今年4月からコロナワクチン接種が有料になっており、接種率が低下しているためです。この結果、患者数は昨冬よりも増加する可能性がありますが、重症者が増える状況にまでは至らないでしょう。
ただし、高齢者は重症化を起こす確率が高くなるため、ワクチンの追加接種を受け、免疫を高めておくことが推奨されています。日本では定期接種として国や自治体が補助金を出していますし、欧米諸国でも高齢者には追加接種を勧めています。高齢者以外の世代は有料の任意接種になるため、各自がそのメリットとデメリットを考えて接種を受けるか否かを判断することになります。
今冬は、コロナに加えてインフルエンザやノロウイルスの流行も起こることが予想されていますが、手洗いやマスク着用といった基本的な予防対策を強化すれば、大きな被害を生ずることなく乗り越えることができるはずです。(了)
濱田客員教授
濱田 篤郎(はまだ・あつお)
東京医科大学病院渡航者医療センター客員教授
1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大で熱帯医学教室講師を経て2004年海外勤務健康管理センター所長代理。10年東京医科大学病院渡航者医療センター教授。24年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。
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(2024/11/21 05:00)
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