「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~

帯状疱疹ワクチンの定期接種が始まる
~認知症の予防にも期待が~ 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第17回】

 副反応はどうかというと、不活化ワクチンでは接種部位の痛みや発熱がかなり高率に見られますが、生ワクチンは副反応があまり起こりません。最後に費用ですが、生ワクチンは約7000~8000円で、不活化ワクチンは1回で約2万円以上(2回で約4万円)とかなり高額になります。

 まとめると、生ワクチンは費用も安く副反応が少なく、不活化ワクチンは有効性が高く、効果が長期間持続することになります。

 ◇50歳から助成する自治体も

 今年4月から始まった帯状疱疹ワクチンの定期接種は、自治体が費用の一部を負担し、高齢者への接種を促進するものです。接種希望者は、いずれのワクチンも約半額で受けることができます。対象者の年齢は原則として65歳ですが、5年間の経過措置として、それ以上の年齢でも受けられる対応が取られています。

 こうした定期接種としての助成と別に、自治体によっては、50歳以上で定期の対象でない人が任意で受ける際の助成制度を設けています。助成額は自治体により異なりますが、定期で受けるのと大きな違いは無いようです。

 定期接種や任意接種の方法や助成額の詳細は、住居のある自治体のホームページを見たり、直接問い合わせたりするようにしてください。

 認知症も予防できる可能性?

 最近、帯状疱疹ワクチンで認知症を予防できるかもしれないという報告があり、話題になっています。

 これは、米スタンフォード大学の研究者が英国の28万人の高齢者を対象に行った調査結果です。それによると、帯状疱疹ワクチンを接種した集団は、接種していない集団よりも認知症の発病が約20%も少なかったのです(4月2日付の英科学誌ネイチャー電子版)。この調査は科学的に信頼性の高い方法を用いており、この結果は信用できると考えられています。この調査で接種されたのは生ワクチンであり、不活化ワクチンを用いたデータではありませんが、別の調査で不活化ワクチンにも同様な効果があることが報告されています(2024年7月25日付の米医学誌ネイチャー・メディシン電子版)。

 こうした研究では、帯状疱疹認知症の発病にどのように関係し、ワクチンがどのように作用したかを明らかにしていません。水痘ウイルスが持続的に感染しているのは神経系なので、帯状疱疹として再燃する際に神経系に何らかの傷害を起こし、それが認知症の原因になっている可能性もあります。ワクチンはウイルスの再燃を予防することで、この神経系の傷害を防いでいるのかもしれません。

 帯状疱疹は水痘にかかった人にとって、誰もが発病し得る頻度の高い病気です。それを予防するワクチンが認知症の予防にも効果があるのならば、これからの高齢化社会にとっては、この上もない朗報になるでしょう。(了)

濱田客員教授

濱田客員教授

濱田 篤郎(はまだ・あつお)

 東京医科大学病院渡航者医療センター客員教授

 1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大で熱帯医学教室講師を経て2004年海外勤務健康管理センター所長代理。10年東京医科大学病院渡航者医療センター教授。24年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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