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しみ・そばかすは30代から
~美容との区別が重要に~ 【第3回】

 顔や腕などの皮膚の一部が茶色や黒褐色に変色するのが「しみ」です。医学的には日光黒子(にっこうこくし=老人性色素斑)と呼びます。紫外線の影響で皮膚組織の中で黒みを出すメラニンという物質が増殖し、表皮に蓄積してしまうのが原因です。夏に日焼けした腕や顔などに黒ずんだ部分が残るのが代表的なものですが、加齢や病気により皮膚の新陳代謝が乱れても出てきます。基本的には30歳代から現れるといっていいでしょう。

鼻の横に茶色のしみが浮き出ている

鼻の横に茶色のしみが浮き出ている

 ◇保険対象でなく自由診療

 美容上は大きな問題になりますが、医学的には紫外線(UV)を受けた際に生じる自然な現象です。このため、治療には健康保険が適用されません。どうしても治したい、消したいという人は全額自己負担の自由診療を受けなければなりません。ただ非常にまれですが、しみと思っていたら悪性の皮膚がんだった事例もあります。少しずつしみが大きくなってきた場合などはがんの疑いがありますので、皮膚科専門医の診察を受けてください。

 一般的なしみ対策としては、まず日傘や日焼け止めクリームを使った紫外線防止や、メラニンの生成を抑えるビタミン剤の服用などが重要になります。それでも出てしまった場合は、メラニン生成を抑えるハイドロキシンを含んだ美白化粧品が最初の対策になるでしょう。医療機関で入手します。美白成分の入った医薬部外品の化粧品もありますが、効き目はそれほどでもないと考えてください。

 ◇有効なレーザー療法

 そこで登場するのがレーザー療法や光治療です。どちらもしみの部分に照射し、メラニンを加熱してかさぶたを作ります。かさぶたが剝がれると、色素も一緒に除去されます。しみの大きさや色素の濃さにより、1回から数回の照射が必要です。また、照射後には炎症後色素沈着といって、レーザー照射部に色素沈着(黒ずみ)が残る可能性もあるので治療後も紫外線対策が重要となります。

 皮膚がんと分からず、レーザーを照射してしまったという医療事故もあります。治療を受ける際にはよく注意してください。できれば皮膚科専門医のいる施設、または経験豊富な医師を選ぶことが大切です。

 「そばかす」は両頬、目の周り、鼻などに多数見られる2ミリ程度の小さな茶色いしみです。医学的には雀卵斑(じゃくらんはん)といい、小学生の頃から出始めます。遺伝的な要素が関連しています。治療としてはレーザー治療や光治療が行われます。

両頬が薄茶色に変色した肝斑

両頬が薄茶色に変色した肝斑

 ◇女性の顔に出る肝斑

 しみとよく似た疾患に「肝斑(かんぱん)」があります。30~40歳代のアジア人女性の顔に見られる、モヤモヤしたような薄茶色のしみです。紫外線による刺激や女性ホルモンの乱れが原因とされています。ただ、顔の両側にほぼ左右対称の形で広がっていること、輪郭がぼやっとしている点がしみと異なっています。注意しなければいけないのは、レーザーや光治療では炎症後色素沈着を起こしてしまう場合があることです。

 まずは、メラニン合成と炎症を抑制するトラネキサム酸とビタミンCの飲み薬が治療の第1の選択になります。また、ハイドロキノンなどの美白化粧品も併用します。肝斑と他のしみが同時に現れることもあるので、治療を受ける際は経験豊富な医師の診断の下、治療方法をよく相談しましょう。

 肝斑の予防とセルフケアで大切なのは紫外線対策です。日焼け止めや帽子、サングラス、日傘の使用が重要です。また、肝斑の悪化予防では摩擦を避けることも大切です。メーク落とし、洗顔、スキンケアのときに肌を擦らないようにしましょう。

 ◇過剰な美白追求には弊害も

 このように、しみの治療の多くは美白剤や内服、光・レーザー治療などが複合的に行われています。美白剤は基本的な治療ですが、一方で、過度な美白追求の弊害として2013年に、ある商品の使用により皮膚の色が白く抜けてしまう「白斑」の出現が報告されて、自主回収される事例がありました。これをきっかけに、化粧品領域では安全性をしっかり担保した美白剤が求められるようになりました。(了)

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木村有太子(きむら・うたこ)
 医学博士、順天堂大学医学部皮膚科学講座講師(非常勤)。
 2003年獨協医科大卒。同年順天堂大医学部附属順天堂医院内科臨床研修医、07年同大浦安病院皮膚科助手、13年同准教授、16年独ミュンスター大病院皮膚科留学。21年より現職。
 日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本美容皮膚科学会理事、日本医真菌学会評議員、日本レーザー医学会評議員。

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