こちら診察室 見過ごしたくない「#育児あるある」

「ありのままの気持ち、受け止めたい」
~病気の子どもと家族に寄り添う―看護師~ 【第8回(最終回)】

江崎陽子さん

江崎陽子さん

 ◇当事者の支え合いが力に

 ―ピアサポートが、病気の子どもたちと家族を支えるのに、とても重要な役割を担っているようです。子どもたちが話したり会ったりすることで、いい影響があると感じる場面はありますか?

 山田 夏に糖尿病患者会のファミリーキャンプがあり、インスリン注射が自分で打てなかった子が年上の子たちに教わり、打つことができるようになりました。先日、外来で「家でも続けてできた」と話してくれました。
 家族で参加するキャンプなので、きょうだい同士も話せ、自分以外にも(治療で必要な)ポンプを着けているきょうだいを持つ子がいるという経験ができます。印象的だったのが患者さんのための治療勉強会で、患者さんの兄が自ら座って、一緒に練習していました。「きょうだいのことをすごく考えてあげている」と改めて実感させられました。ご家族とも話ができるので、患者会というのは看護師にとってもありがたい存在です。

 福島 うちもコロナの影響でサマーキャンプが3年間もできなかったのですが、今年ようやく7カ所でキャンプができました。こうしたキャンプの場では不思議なもので、割と深刻な話を笑いながら話せたりするんです。

 ―病院でも、初対面で分かり合えるような当事者同士のやりとりが見られますか?

 鳥井 同じ病気と闘う患者さん同士が、言葉を交わしていないのに「大丈夫だよ」とうなずき合っている姿をなんとなく感じます。
 コロナ前に参加した糖尿病キャンプで、ご両親の「私たち親が2人ともお酒を飲めるのは、このキャンプだけ」という言葉が印象に残っています。普段は自宅でも「子どもに何かあったときにどちらかが動けないといけない」と思うと飲めなくて、2人で飲めるのは1年で1回、この時だけだそうです。この言葉を聞いて圧倒されました。日々こんな思いを抱えて、お子さんを見ていらっしゃるのかと。そういう思いは当事者同士が共感し得ることではないかと思います。

福島慎吾さん

福島慎吾さん

 江崎 幼児期の子たちは、自分たち同士で近寄れなくてもベッドの上で歌を歌い合って楽しんでいます。また、検査の日の朝は絶食なのですが、ある子の朝ご飯が無い様子を見て「検査だね、頑張って!」と声を掛け合っています。本当によく見ていて、お互いを励まし合っている姿があります。骨髄移植で個室に隔離されるときも、大部屋に戻れるのを楽しみにしている子が多く、それが大きな力になっています。子どもたち同士が自分たちで関係をつくっていく力は大切だと思います。

 ―友達同士、家族同士、医療関係者のつながりが力となるのですね。

 江崎 子どもたちが楽しそうにしていると、親御さんも楽しそう。それを見ると医療に携わる者も安心し、声を掛けやすくなり、いい循環になるのではないでしょうか。私たちも「つなげる」ことを意識していきたいと思います。

 ◇心の変化捉え背中押す

 ―「病院が嫌だ、行きたくない」と思っている子にはどのように声を掛けていますか? 前向きな気持ちになってもらうにはどうしていますか?

 江崎 ありのままの気持ちがとても大事なので、無理に前向きにならなくてもいいと思っています。その子なりのペースがありますから。ただ、治療のことだけではなく、子どもたちが興味を持っていることに触れるようにします。

 山田 私はどの子にも同じように接します。子どもが悲しい気持ちでいても、それを無理に盛り上げるということはありません。ただ、少しの変化に気付くのはとても大事で、それこそ興味を持っていることについて話すのはいいきっかけです。看護師は病気の話だけでなく、いろいろなことを話せる人になれればいいと思っています。

 鳥井 ささいな変化をキャッチできるのは、家族の次に、ベッドサイドにいる看護師です。看護師が一番得意としているところです。その小さな変化を見つけて「(子どもが)一歩前に進めるかな」と思ったら、ちょっと背中を押してあげます。それで「気持ちが変わった」と思う瞬間があります。そうして「嫌だけど仕方ないか」となってもらえたらうれしいです。一人ではできなくても、病院のみんながチームとなって、子どもたちが前を向けるよう最大限の支援をしたいと思います。

左から福島さん、鳥井さん、江崎さん、山田さん。「病気や障害のある子も、成長していく上で保育所や学校といった社会で過ごす。必要な支援を受けることにおいて、誰一人取り残されないような仕組みづくりについて私たちも考えたい」と話す

左から福島さん、鳥井さん、江崎さん、山田さん。「病気や障害のある子も、成長していく上で保育所や学校といった社会で過ごす。必要な支援を受けることにおいて、誰一人取り残されないような仕組みづくりについて私たちも考えたい」と話す

 ◇関係づくりへコミュニケーション重視

 ―ご家族にはどんなアドバイスがありますか?

 山田 例えば子どもが1型糖尿病を発症して入院するとき、あえて家族だけを呼んで個室で必ず話をします。子どもの前だと親は泣けないし、子どもの前では聞けなかったことを聞く時間を意図的につくるようにしています。

 江崎 勝手に親御さんの気持ちを分かった気にならないよう気を付けています。いろいろな気持ちが大事で、ありのままを受け止めようと心掛けています。また、不安や心配事は家族それぞれなので、丁寧に対応したいと思います。家族への支援はとても大事。家族を支えることが患者さんを支えることになると言ってもいいくらいです。

 鳥井 家族と接する中で、病状についてはあえて触れず、「きょうの朝はこんな様子でしたよ」などと治療とは全く関係ない話をすることで、いつでも声を掛けてもらえる関係性にしていくのが大事だと思います。クスッと笑えるエピソードにはみんなが笑顔になります。子どもは入院していても日々成長・発達します。その成長を共感したいと思っています。

 福島 言葉って「これ言っちゃいけない」「あれ言っちゃいけない」ではなく「あなたのことを思っていますよ」と伝えることが大事だと思います。人間は誰でもわがままで自分中心なので、同じ言葉でも言われる人によって受け取り方が変わってきます。ピアサポートはそういう壁みたいなものを越えやすいんです。こちらが「大丈夫」「分かるよ」と言えば、相手は確信がないながらも「大丈夫かも」と一歩踏み出す勇気を持ってくれることもあります。
 ピアサポートが持つもう一つの力は、相手を支えることで自分も救われるような側面があるところです。自己効力感を実感できるんですよね。
 また、ピアサポートは必ずしも同じ病気の人同士でなくても成り立つことがあります。学校の悩みや、「なぜ自分は病気の子どもの親なのか」といった話については、異なる病気でも力を発揮できることがあります。こういう面があると知ってもらえればいいですね。(柴崎裕加)

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