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マスク着用、子どもの判断尊重を
~自主性育み成長にプラス~ 【第5回】

 新型コロナウイルス感染症法上の位置付けが5類に変更されたことを受け、マスクを着用するかどうかは個人の判断に委ねられるようになりました。街中では、状況に合わせてマスクをつけている方、外している方の両方が見られるようになっています。ようやく制限から解放される安堵(あんど)や喜びの一方で、マスクの着脱について、突然自分で決めなくてはいけなくなったことに戸惑いを覚えている方もいるかもしれません。自分の子どもに対しても、マスクの着用を促すべきか、外すよう勧めるべきか悩む方が少なくないかもしれませんが、基本的には子どもの判断を尊重しましょう。本人の成長に寄与するとみられるからです。

 ◇利点・欠点、時々の状況を考慮

 マスク着用にはメリットとデメリットとがあり、前者としては、感染予防の効果が一定程度あるのが確実です。コロナ下で実施された多くの研究でも繰り返し報告されています。他方、後者については①マスクをしていると呼吸が浅くなり、暑い中では熱中症になりやすい②声が聞こえづらい③特に幼児では、大人の表情が見えないために感情を読み取りにくくなる―などの例が報告されています。幸い、マスクをしていると(あるいは周りの大人がしていると)子どもの発達が遅れるという報告はまだありません。まさに、自分の体調、周りの人の体調、周囲の感染状況、人との距離、気温など複数の事項を踏まえた、その時々の判断が求められます。

 子どもたちに「マスクをつけたい? 外したい? それは何で?」と聞いた国立成育医療研究センターの調査では、外したい理由は「不快(息苦しい、暑い、かゆい、など)」が74%と圧倒的で、次いで「会話しにくい(表情が見えない、話しづらい、聞こえにくい)」(29%)、「(勉強や遊びに)集中できない」(18%)となりました。

 一方で、マスクをつけたい理由としては、「(コロナなどの)病気にかかりにくくなる」(57%)、「安心する」(47%)、「他の人に(コロナなどの)病気をうつしにくくなる」(46%)、「みんながマスクをしている」(44%)、「自分のツバが他の人に飛びにくくなる」(30%)などが挙がりました。

 ◇家庭内の対話重要

 子どもと家族の方で判断が違っても、ぜひその判断を受け入れて見守っていただければと思います。子どもがどのようなことを感じているのか、考えたのかについて話し合ってみる良い機会と捉えていただくとよいかもしれません。もし、子どもの判断に口を出したいと思ったら、「周りがマスクをつけている(外している)」ではなく、あなたが判断材料としたメリットやデメリットを理由として提示することで、本人の考えを深めてあげられると思われます。

 小さなことかもしれませんが、子どもたちに選択の主導権を与えるように心掛けていると、子ども自身の発達にも良い影響があると報告されています。大人が決めたルールに従うようコントロールされる環境の下で育った子どもは、自己肯定感が低く、不安・抑うつが大きくなり、問題行動や非行・攻撃性が増すほか、自分で選んだ経験が少ないので受け身になりやすいことが報告されています。一方で、一貫した社会のルールを明確に提示した上で対話を重要視する関わり方で育った子どもは、自己肯定感が高くなり、自身が日々直面する問題を自分の力で解決できる力が育まれることが報告されています。

 コロナ初期は社会としての細かいルールが矢継ぎ早に設定され、大人も子どもも、そのルールが本当に正しいのかを判断する材料も余裕もなく、取りあえず従わざるを得なかった期間があったかと思います。コロナに関する情報は、まだ日々更新されている状況ですが、少しずつ判断材料はそろってきています。「自分で判断できる」機会が増えることは、子どもたちの自主性を伸ばすチャンスと捉えたらよいかもしれません。

 今回はマスク着脱をめぐる議論や考え方を述べてきました。この問題について次に子どもと対話するときの、ささやかなヒントになるよう願っています。(国立成育医療研究センター・森崎菜穂)


森崎菜穂(もりさき・なほ)
 国立成育医療研究センター 社会医学研究部 部長。
 2007年東京大学医学部医学科卒。専門は周産期医学、周産期・小児期疫学。医学博士、公衆衛生学修士、日本小児科学会指導医・専門医、社会医学系指導医・専門医。

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