こちら診察室 依存症と向き合う

第6回 「認知行動療法」を知っていますか
対処方を増やし、柔軟に選択 ~久里浜医療センターの「今」~

 ◇行動・感情の変容を促す

 しかし、近年では、不快感や恥、罪悪感、不安は変化の原動力にはならないし、否認の打破を目的に気付きのヒントを与ええる「直面化」や対決的な治療態度による介入は、共感的、支持的な姿勢で患者に臨む介入に比べて治療中断率が高く、最終的な治療成績が悪いことが明らかになっています。

 そして、現在では患者のやる気を引き出し、行動の統制を通して依存症からの回復を図る認知行動療法が広く行われています。

 認知行動療法とは、物事や出来事に対する受け取り方や考え方である「認知」に働きかけて、行動や感情の変容を促そうとする心理療法の一つです。この考え方しかないと凝り固まっていた考え方のバリエーションを増やし、自分にとってよりよい考え方を柔軟に選択することで、出てくる行動や感情を変えていくことを目的としています。

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 ◇引き金は何か

 依存症に対する認知行動療法では、その物質を摂取したい、行動をしたいという欲求の引き金に対して、「飲むしかない」「うつしか考えられない」となっていた認知の幅を広げ、対処方法を増やしていくことを考えます。

 例えば、「嫌なこと」という引き金があったとき、「酒を飲んで忘れよう」と考え、飲酒していたとします。これを「嫌なこと」があったときに「何か運動して発散しよう」と考えられれば、バッティングセンターに行くといった行動に変化します。

 カラオケに行こう、温泉に行こう、泣ける映画を見よう、誰かに話そうというように対処方法の選択肢をたくさん持っておくことができれば、飲酒以外のより良い行動を選択できるようになります。

 ◇葛藤・ストレス

 アルコール依存症の50代のある女性は、病院での治療・退院後も時折、大量飲酒して救急搬送されていました。そして、内科的な治療を受けるとしばらくは飲まない生活をします。

 この女性の父親はどうしてもギャンブルをやめられず、彼女が子供のころから家庭内をめちゃくちゃにしていました。それでも自分には優しい父親が大好きでした。その父親が認知症になり、女性が引き取って介護しなければならなくなると爆発するように飲酒を繰り返していました。

 ある時、女性はもはや父親を責めることもできない中で面倒をみるストレスや葛藤的な気持ちから飲酒しているのを自覚しました。そして、カウンセリングの中で飲酒の引き金となっているストレスを発散する方法を一緒に考えていきました。

 ◇ほどほどで許す

 すると「トイレに貼ったカレンダーの紙の裏に言いたいことを書きなぐる」「一人でカラオケに行って歌いまくる」「いらない紙を細かく破る」などいくつかの発散方法が出てきました。また、「父親の面倒は夫にさせてはいけない」「一人で完璧に面倒を見なければならない」と抱え込んでいたのですが、カラオケに行きたいときなど、少しずつ夫にも見ていてもらえるようになってきました。

 この頃から気持ちに余裕が生まれ、父親に対しても、さらには完璧にできない自分に対しても、ほどほどで許せるようになったようでした。

 ◇生き方を見直す

 依存症からの回復は、酒やギャンブルなしではやってこられなかった、不器用だった生き方を見直して立て直したり、同じく回復過程にある仲間や周囲からのサポートを得たりしながら、少しずつ形作っていくものだと思います。

 その過程は、認知行動療法だけで全てうまくいくようなものではないと思います。しかし、「飲む・飲まない」「うつ・うたない」だけでなく、生き方のとらえ直しを含む依存症からの回復過程で考え方のバリエーションを増やし、自分にとってより良い物事のとらえ方、考え方を柔軟に選択してゆく認知行動療法のスキルは、一助になってくれると思います。(久里浜医療センター主任心理療法士 三原聡子)

三原聡子氏

(*出典)原田隆之:刑事施設におけるエビデンスに基づいた薬物依存治療(2010年).Pp51-64、2010


三原聡子氏(みはら・さとこ)
法政大卒。筑波大大学院修士(カウンセリング)。埼玉県内精神科病院を経て、2009年久里浜医療センター。11年ネット依存専門治療外来開設時よりネット依存の治療・研究に携わる。臨床心理士、精神保健福祉士、公認心理士。

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