細井昌子 医師 (ほそいまさこ)

九州大学病院

福岡県福岡市東区馬出3-1-1

  • 心療内科
  • 講師

心療内科 神経内科 麻酔科

専門

心身医学、疼痛学、神経医学、難治性慢性疼痛患者の診断と治療

細井昌子

細井昌子医師は、慢性疼痛(心身症)を専門とする心身医学専門医。日本で初めて心療内科が開設された九州大学病院で、全国からの患者を受け入れている。社会的ストレスにより増悪する腹痛や認知行動様式が症状の持続に関連している全身各所の痛みなど、身体的な症状と心理社会的要因との関連を明らかにしつつ、医師・看護師・臨床心理士らとのチームによる治療法を開発・実践。自律訓練法、認知行動療法的アプローチなどを併用し、多面的かつ段階的な心身医学的治療を行っている。

診療内容

心身症とは、身体の病気の中で発症やその後の経過に心理社会的要因が密接に関係しているものをいい、神経症やうつとは異なる。心理社会的要因には養育環境に影響されたパーソナリティ特性、対人交流様式(愛着障害)、認知行動様式、家族内交流不全、家族や社会からの環境ストレスなどがあげられる。これらの要因で、否定的感情が起こりやすくなったり、蓄積しやすくなったりすることがあり、情動調整不全から健康維持行動に障害が起こる。こうした心理社会的要因によって維持された不安定な心理状態により、日常的に繰り返される行動パターンを介して、最終的に身体症状として現れているのが心身症の症状であり、多くは自律神経系の失調状態を合併している。さらに複雑なことには、一旦生じた身体的な不調も心理状態に影響を与えるので、心身症では心と身体の複雑な相互作用を念頭においた治療が必要となる。
細井医師が専門とする慢性疼痛も心身症のひとつである。「痛みには感覚と感情の両面があり、それぞれの神経回路が実際にあります。痛みが慢性化することで、痛みそのものからの不快な感情が発生し、さらに生育歴や生活環境からくる心理的葛藤による不快感が加わって、患者さんの苦悩は大きくなっていきます。この不快な感情体験と感覚体験の両方が不可分の混合体となって痛みとなるのです。病気やケガの病変部は治癒しているのに痛みが慢性化していることもありますし、病気やケガから発生した痛みが長びくうちに、2次的に生じた環境ストレスから、心理学的な対応が必要となる場合もあります。痛みの症状や苦悩の準備因子、発症因子、持続増悪因子について、全人的に理解し、対処していくことが大切です」と細井医師は話す。痛みの準備因子としては厳しい生育環境や、完璧主義・強迫的なパーソナリティ特性に伴う過活動、失感情症(感情を自身で同定し言葉にできない特性)などがあげられる。また発症因子としては外傷、交通事故、急性胃腸炎、帯状疱疹、手術、身内の死、家族や職場でのトラブルなどが考えられ、持続増悪因子には2次的に発生した抑うつ・不安症状や家族内交流不全などがある。
「慢性疼痛の治療目標は持続的な痛みストレスに対する耐性を高めること、痛みのある生活を受け入れその自己コントロール感を獲得すること、日常生活の行動を広げ、社会生活への適応を改善していくことです。また、痛みの慢性化に伴い失われた人生の悦び・楽しさ・生きがいを見出せるようになることでもあります。具体的には徹底した支持的カウンセリング、認知行動療法、自律訓練法、交流分析、表現療法、家族療法的対応などの心理療法や薬物療法、理学療法、運動療法などを、多面的段階的治療として個々の症例に応じてオーダーメイドで行っています」と細井医師は言う。「認知行動療法には、悲観的な考え方を現実的なものへと変える練習を行う認知療法、人づきあいの仕方を訓練する社会技能訓練、緊張をリラックスさせる筋弛緩法、リラックスしものごとをありのままに受け入れる練習である瞑想法、困った出来事の解決法を訓練する問題解決訓練、苦手なものに慣れる訓練であるエクスポージャー法など、さまざまなものがあります。患者さんが症状のコントロール法を練習し、自身の治療者となることを援助するのが目標です。自律訓練法は自分自身で心身の状態を安定化させる訓練です。いつでもどこでも行えるので、日常生活のさまざまな場面で行うことのできるセルフコントロール法です。交流分析は一人の人間の中に、親、大人、子どもという3つの異なる心の状態が存在するとし、この中のどのモデルがどのような状況で働くかを理解、推察することで、より円滑なコミュニケーションを築こうとするものです。近年欧米でもさまざまな難治性疾患の治療として注目されているマインドフルネスストレス低減法と言われる第3世代の認知行動療法も取り入れることで、とくに難治例にも効果を実感しています」。
治療に何より必要なのは痛みに対する本人や周囲の理解である。「慢性疼痛の患者さんにとって疼痛は現実なのですが、それは周囲も対処しにくい症状で、本人も周囲も、ときには医療者も無力感に陥りがちです。臨床医学的な見地に立つと、どうしても現存する検査の異常の有無で判断されてしまいます。しかし、基礎医学的見地では、患者さんの体験する身体の痛みや社会的ストレスに伴う痛みが脳科学的にも理解されるようになってきています。そういった現代脳科学の進歩したエビデンスをもとに、患者さんの苦痛や苦悩を周囲が理解することで、患者さんも安心を得ますし、それが心身医学的治療の第1歩となります。不公平待遇、社会的疎外感、死別、社会的比較での劣等感といった人々が現実生活で日々実感しているような社会的ストレスでも、身体的痛みのときに実感する不快感と同じ脳部位が活性化していることがわかってきています。また、様々な罪悪感も痛みの不快感と合体し痛み苦悩を増やしやすい特性があるようです」と細井医師。心身症の患者は意識より身体の方が先に反応してしまい、痛みに影響を与えている全人的な実存的苦しみに気がつかなかったり、気がついても自分の中で抑圧したりしてしまうのだという。「そういう患者さんには、漠然とした苦しみに対して自分が心身両面でどのように反応し、どのように苦しんでいるかについて理解できるように、自身の自然な感情を語っていただけるような安心した信頼関係を形成するように心がけます。これまで難治とされてきた症例では,この信頼関係の形成にじっくり時間をかけることが結果的に早道であることを実感しています。そして、自身の率直な感情を自分で認めてあげられるようにサポートし、言葉で表現してもらい、病気の成り立ちを理解してもらいます。それによって、効果的な対処法を検討し、実践していくことが可能となります。混沌とした未分化な人々の“生きる苦痛・苦悩”をより分化した心身の反応として理解できるように援助し、言葉にならない苦しみを自分の言葉として表現し自分の自然な感情の存在を認めていけるようなサポートを医療者が行うことが大切です。このような医療スタッフの治療的介入が痛み医療に実際に貢献することを医学的に証明し、痛み医療のなかで治療法として確立していくこともこれからの我々の目標のひとつです。大学病院心療内科の特殊な環境でようやく得られてきた【心身の痛み対処としての実践の知恵】を【社会の知恵】にしていくような社会貢献も今後検討していきたいと思っています」

医師プロフィール

1987年3月 九州大学医学部 卒業
1987年4月 九州大学病院麻酔科研修医
1989年6月 九州大学病院心療内科入局後、内科・心療内科臨床研修
1997年9月 九州大学大学院医学研究院修了 学位(医学博士)取得
1997年5月 米国国立衛生研究所(NIH)、アルコール乱用・依存研究所(NIAAA)、
Lab of Molecular and Cellular Neurobiology留学(2002年6月帰国)
2004年4月 九州大学病院心療内科助手
2006年4月 九州大学病院心療内科助教
2010年1月 同診療講師(助教)(~2013年5月末まで)
2010年5月 九州大学大学院医学研究院 講師併任(~2013年5月末まで)
2013年6月より 九州大学病院 心療内科 講師就任
現在に至る