水野泰行 医師 (みずのやすゆき)

関西医科大学附属病院

大阪府枚方市新町2-3-1

  • 心療内科・総合診療科
  • 助教

心療内科 総合診療科 東洋医学

専門

心身症全般、慢性疼痛、漢方治療

水野泰行

慢性疼痛を専門とする心療内科医として、多くの論文・学会発表、講演活動を行う。心身医学を専門とし、関西医科大学附属枚方病院では心療内科と総合診療科とを兼任。臓器だけに焦点を当てるのではなく、患者の生活環境やストレス、行動パターンも考慮して症状を理解する視点を持つ。治療については薬物療法だけでなく、また医師主導の治療でなく、症状や治療に対する患者自身の考えや思いを尊重して、自己治癒力を引き出す治療を協同して作っていくことを重視している。

診療内容

「身体症状を理解するには、症状の器質的要因だけでなく機能的要因にも目を向ける必要があります」と語る水野医師は、同院において総合診療科と心療内科での診察を兼任しており、慢性疼痛の診療は心療内科で行っている。
「いまだに“本当の病気=器質的疾患”という概念にとらわれている医療者が多いのが現状。その結果“検査では異常なし”という事実が、単に“異常なし”と受けとられ“(患者の)気のせい”という誤解に結びついてしまうという、医療者にとっても患者にとっても不幸な出来事が起こっているのです」(水野医師)
内科の一部門である心療内科が他の内科と大きく違うのは、心身相関を考慮した医療を実践しているということである。つまり生活環境や生活習慣、考え方や行動のパターン、ストレスなどが、体の症状にどのような影響を与えどのような影響を受けるのかを考えて疾患を理解して、個々の患者に合わせた治療を作り上げていくということだ。
心療内科の基本である「臓器や病気だけを見るのではなく、病気を抱えた“人”を診る」ことが、水野医師のモットーである。
国際疼痛学会の定義によると、疼痛とは「不快な感覚的および情動的な体験」とされている。つまり疼痛は、単に感覚の問題ではなく、それに伴う感情や行動をも含んだものである。実際に最新の脳の研究では、痛みを感じているときに人の脳は感情や記憶、判断などに関わる部分が活発に働いていることが証明されている。しかも疼痛は視覚や触覚のような知覚だけではなく、患者自身の体験として定義されているのだ。
「つまり客観的に観察される部分だけではなく、誰がどのように体験しているのかという個別性のところまで考えなければその実態はつかめない」と、水野医師は考える。
痛みを抱えた患者の治療に際しては、まず「信頼関係の構築」が不可欠であり、それが治療の効果を最大限に引き出す秘訣でもある。その理由を、水野医師はこう語る。「例えばここによく効く薬があります。その薬は70%の患者に効果があり、薬効のない錠剤では20%しか効果がないとしよう。その結果をもってこの薬には効果があるといえるわけですが、それと同時に効果のないはずの錠剤でも20%の人には効果があることを証明する結果でもあるのです。これをプラシーボ効果といって、この作用がなければよく効く薬の効果も50%に落ちてしまうわけです。鎮痛薬のプラシーボ効果は28.5%ともいわれており、この効果をどうコントロールするかによって治療効果も大きく変わってくるのです。そう考えると、同じ薬を使うにしても“よりよく効く使い方”があるはずで、“どの薬を使うか”から一歩踏み込んで“どの薬をどう使うか”まで考えて処方するのが心療内科の個性といえるかもしれません。そしてこのプラシーボ効果を高める大きな要因は、患者と医師の信頼関係と考えています」
はじめから心療内科を受診する患者は少ない。筋や関節の痛みなら整形外科、腹痛なら消化器内科といった具合に、多くはその他の身体科あるいはペインクリニックを受診し、改善しなかったということで心療内科を受診する。
「慢性疼痛患者のなかには適切な薬物療法やブロック注射などで改善する患者も多いと思うので、それ自体は妥当な流れでしょうが、一方で“もう少し早く心療内科にかかっていたら、これほど悪化しなかっただろうに”と思える患者も珍しくありません」(水野医師)
こういった現状の背景には身体疾患である心身症の診断と治療を専門とする心療内科医の不足が挙げられる。どのくらい少ないかというと日本ペインクリニック学会専門医が約1,400人いるのに対して、日本心療内科学会専門医は1割の140人しかおらず、しかも専門医が一人もいない県が21もあるという状況だ。さらに、心療内科を標榜する医療機関には精神疾患を専門としているところが多く、結果として患者は身体科で体の面だけを診られるか、精神科や心療内科で精神面だけを診られるかのどちらかであるといっても過言ではない。
体の痛みを主な問題として心療内科を受診する場合には、本来の役割である「心身医学に基づいて身体疾患の診療を行う心療内科かどうか」をしっかり見極める必要がある。さて、こうやって心療内科にやってきた患者では、痛みに対してどうしたらよいか分からず混乱していたり、今の自分は本当の自分ではないと悲しんだり、良かれと思ってとっている行動がかえって痛みを持続させる悪循環に陥っていたりする人も少なくはない。
そのような患者には残念ながら、医師が何か素晴らしい治療を施して「治してあげる」ことはほとんどできない。患者自身が自分の病気を理解し、受け止め、自身の治る力を信じ、痛みとの付き合い方を変化させていかなければならない。つまり、患者が自分で「治っていく」のを、医師が専門的知識と経験に基づいてサポートするのである。
このような治療関係を水野医師は次のように説明する。「私はよく患者に例え話を使って説明します。治療の過程は山登りに似ていて、医者はガイドとして“こっちの道がよさそうですよ”とか“もう少しペースダウンしませんか”とかいったアドバイスができますし、患者のペースに合わせて一緒に登っていくこともできます。しかし登るのは患者自身の脚であって、背中におぶって代わりに登ってあげることはできないのです。しかも山は登ろうとせずに遠くから眺めていると頂上が見えますが、一旦登り始めると見えなくなります。いつ頂上に到着するか分からない不安を抱えながら、“それでもこの道が頂上に続いているに違いない”と信じて、今できる一歩一歩を踏み出していくことで、あるとき突然視界が開け、眼下に広がる雄大な景色を見て“頂上まで登り切ることができたんだ”と気付くでしょう」
心療内科の主な技術は患者とのコミュニケーションの技術であり、それは客観的に評価されにくい。また、患者からの受容が高い割には診療報酬の面ではほとんど評価されていない。それでも心療内科を続けるのはどうしてだろうか。
「若くから心療内科をしている医師はたいてい5年か10年経つと悩みます。同期でその他の内科や外科に進んだ医師が、内視鏡やカテーテル手術などの難しい技術を身につけていたり、難しい手術をこなしたりしているのに対して、自分は何ができるようになったのだろうと自問すると“患者の話を聴ける”ことくらいなのです。それが大切なことは分かっているけれども、もう少し華やかな場にも立ってみたいという迷いも出てきます。それでもやっぱり心療内科をやめられないのは、患者との関わりから得られる喜びのためではないでしょうか。心療内科医である自分との関わりを通して、患者が自分を深く見つめ直し苦労しながらも変化していく過程に寄り添わせてもらえたときの感動は、外科医が難しい手術を成功させたときの喜びにもひけをとらないでしょう。心療内科医の言葉は外科医のメスであり、外科医が命を救うのと同じように心療内科医は人生を救う……とまでいうのはおこがましいですが、人生の転換期に立ち会わせてもらえる経験はなかなか味わい深いものがあります」水野医師は医師と患者との信頼関係の重要性を改めて強調し、言葉を締めた。

医師プロフィール

1999年 大阪市立大学医学部 卒業
2001年 関西医科大学心療内科学講座研究医員
2003年 コープおおさか病院心療内科
2004年 関西医科大学心療内科学講座専修医
2006年 関西医科大学心療内科学講座助教