前田正治 医師 (まえだまさはる)

福島県立医科大学附属病院

福島県福島市光が丘1

  • 災害こころの医学講座
  • 主任教授

精神科 神経科

専門

PTSD(心的外傷後ストレス障害)などトラウマ関連障害

前田正治

前田正治医師は数多くのPTSD患者の治療に当たってきた。PTSDなどのトラウマ反応は「医師の力だけでは治せない病」と語り、臨床心理士、ソーシャルワーカーなど他職種と連携し、チームワークで治療に望む。ガルーダ航空機墜落事故(1996)やえひめ丸沈没事故(2001)の被災者の調査やケアに従事した。現在は東北被災地、とくに福島県において、現地の支援者に対する定期的支援を行っている。日本トラウマティック・ストレス学会会長として、専門家によるネットワークの構築にも力を入れている。
2013年10月1日に開設された、福島県立医科大学医学部・災害こころの医学講座の主任教授として勤務。前田医師は、災害が人の精神にどのような影響を及ぼすのか、被災者に対してどのようなケアや治療が必要となるのかを考え、検証し、実施・提言するという役割を担っている。

診療内容

PTSDなどのトラウマ反応は、医師の力だけでは治すことが難しいことが多い。
「PTSDは、一人の名医がいれば済むというような病気ではありません。医者が一人で行えるものとして処方を出すことがあります。たしかに薬物療法は有効です。選択的セロトニン再吸収阻害剤(SSRI)などの抗うつ薬をはじめ多くの薬物が、PTSDの様々な症状に対して有効ですが、その前提となるのは患者さんとの信頼関係です。そして薬物療法と同時に、認知行動療法など様々な心理療法(精神療法)が必要となりますが、時間をかけて行う場合は、臨床心理士が行う場合が多いと思います。また患者さんは、転居を余儀なくされる、仕事にまったく行けなくなるなど、現実的な喪失が大きく、経済的な問題を解決しなければならないことも多いので、ソーシャルワーカーも必要です。DVの患者さんや非虐待児などの場合は現実の危険性から守ってあげなければならないので、安全を確保するためのシェルターも必要です。これは行政機関との連携が求められます。このようにトラウマの患者さんにはチームで、対処することが多いのです。また、患者さんは犯罪被害者であることが多いので、その場合は警察や弁護士さんと連携して動いています。裁判の証人として法廷に立つこともあります。治療と言うと、薬物治療や個人精神療法ばかりが注目されがちですが、やはり他職種を交えたチームで行うということがとても大切だと思います」
ゆえに前田医師の場合も、保健師や臨床心理士、ソーシャルワーカーなどとともに、患者や被災者・被害者の治療にあたる場合が多い。多職種チームによる支援は、災害などではとくに重要であるという。
「PTSDに取り組んでいる治療者たちはネットワークを持っています。とくに今回の東日本大震災ではそうですが、災害性の強い出来事が発生した場合は、このネットワークの構築がまさにカギとなります。とりわけ保健師など行政サイドとの連携は極めて重要です。メンタルヘルスに関しては、長期的な支援が必要なので、支援者個々が頑張っても自ずと限界が生じます。支援者や治療者どうしのつながりがもっとも大切だということです。これは今回のような自然災害ばかりでなく、人為的災害やテロ、犯罪などにおいてもほぼ同じことがいえると思います」
一方でトラウマ治療は、治療者の心にもダメージをもたらす。
「この分野の特徴として、治療者が疲弊し、トラウマを受けてしまうケースがあります。私は現在、毎月福島に行っていますが、現地の医療福祉スタッフ、あるいは行政職員の疲弊は強く、その面で大変心配しています。たしかに災害ではトラウマ支援は大切ですが、その支援者こそがトラウマを受けやすいもっともハイリスクな人々となります。とくに被災地の支援者の苦労は並々ならぬものがあります。気を付けてほしいと思います。また、災害でなくても日常的にトラウマ関連の患者さんの治療を多く行っている治療者は疲弊しやすいという国内外の報告はとても多い。これがこの分野の治療の難しいところであるし、多くの医師がトラウマ治療を避けてしまう一因かもしれません。私はもともと統合失調症の方々のリハビリテーションの臨床研究を行っていました。でも阪神大震災の翌年1996年に、福岡県で起きたガルーダ航空機墜落事故の際に、行政の方々と共に被災者支援をしたことが、トラウマ臨床を行う大きなきっかけとなりました。その後大きな事件では、2001年のえひめ丸沈没事故の被災者の調査やケアに従事することになりました。このときは、2年間は毎月愛媛県宇和島市に行きましたし、米国との補償交渉が終わった時には、すっかり身体を壊してしまいました。やっぱり相当無理をしていたんでしょうね。その時は一生懸命であまり気が付きませんでした。現在は福島県で、おもに現地の支援者への支援を、日本トラウマティック・ストレス学会事業として、あるいは「ふくしま心のケアセンター」の顧問として行っています。福島はまだ困難な状況が続いています。皆様のご支援がまだまだ必要です。どうぞよろしくお願いいたします」(前田医師)

医師プロフィール

1984年 3月 久留米大学医学部卒業
1996年 9月 久留米大学精神神経科講師
2007年10月 久留米大学医学部精神神経科准教授
2013年10月 福島県立医科大学医学部・災害こころの医学講座 主任教授