生化学自動分析装置(検体検査) 家庭の医学

 人体から微量の検体を採取しておこなう検査は検体検査と呼ばれます。なかでももっとも一般的なのは、血液や尿などの体液を検体とし、その成分を分析する生化学検査で、多くの場合、全自動の分析装置を使用しておこなわれます。採血後、血液を凝固させ、遠心分離器で血球と血清(血液から血球を凝固させて取り除いた液体成分)を分離して、血清を装置にセットするだけで、あとは自動で測定結果が表示されます。臨床の現場でよく目にする、γ-GPT、GOT(AST)、GPT(ALT)、尿素窒素、クレアチニン、総たんぱく、アルブミン、コレステロール、中性脂肪、尿酸やグルコース(血糖)などの検査項目は、こうして測定され診療に利用されています。近年では、一般的な生化学検査項目に加えて、腫瘍マーカー、免疫血清、凝固検査の一部の項目なども測定可能となっており、生化学自動分析装置は検体検査の主役をになう存在となっています。
 検体がセットされた装置の内部では、検体の反応容器(セル)への分注(一定量ずつはかって注ぎ入れること)、検査項目に応じた試薬の分注、撹拌(かくはん)と一定温度の維持といった操作がすべて自動でおこなわれます。プロセスの進行とともに測定成分と試薬の間で反応が進み、検体は特定の色に発色します(呈色)。あらかじめ設定された時間(反応時間)になったら、呈色の度合い(色の濃さ)を測定します。この測定は、検体に光を当てて吸収の強さ(吸光度)を測定する吸光光度法(きゅうこうこうどほう)でおこないます。吸光度は溶液の濃度に比例するので、測定成分についてあらかじめ複数の濃度で試薬と反応させて吸光度を測定し、濃度と吸光度の関係をグラフにしておけば(検量線)、吸光度の測定結果から検体中の測定成分の濃度がわかります。一連の測定の最後に、検体が直接触れる部分を洗浄して次の測定に備えますが、これが不十分な場合、次の測定に影響が及び検査精度の低下につながるため、確実な洗浄が求められます。近年、一般的な生化学検査項目以外の検査項目が測定できるようになったのは、おもに洗浄技術の進歩によるものです。
 このほか、血液中の赤血球や白血球の数や形態を調べる血液学的検査などでも、同様に自動測定装置が使用されています。これらのおかげで、採血から検査結果が出るまでの時間は年々短縮されており、最近では、採血から検査結果が出るまで1時間程度の迅速検査が多くの病院で実現されています。
 血液生化学検査は、反応に必要な試薬が乾燥状態で組み込まれた、使い捨てのキットを使用しておこなわれることもあります。検体を滴下するだけで反応が進行し、給排水は不要なため、ドライケミストリーと呼ばれますが、こうした検査にも自動分析装置が使われます。装置のサイズが小さく、操作やメンテナンスが容易で、最近の装置では数分程度で結果が得られます。いつでも簡単に即時検査ができるため、緊急検査や、ベッドサイドでの検査、災害時の診療などで特に有用ですが、検査室を持たない診療所での診療など、日常診療でも広く活用されています。

(執筆・監修:自治医科大学 教授〔臨床検査医学〕 紺野 啓)