MRI(磁気共鳴画像)検査 家庭の医学

 CT検査とは異なり、X線被曝なしに体内の断層像や立体画像が得られるのがMRI(磁気共鳴画像:magnetic resonance imaging)検査です。強力な磁場内に置かれた水素原子(プロトン)に高周波を当て、得られる微小な電磁波の変化を検知し、水素原子の分布、結合状態などの情報をもとに画像化します。
 撮像断面を自由に設定できるので、代表的な断面である横断面(水平断)や縦断面(冠状断、矢状断)のほか、任意の断面での画像が得られ、3次元の立体画像も容易に構築できます。また、電磁波は骨組織も透過するので、脳や脊髄、関節腔などの描出にも優れています。頭部では、早期の脳梗塞、無症状の脳梗塞、脳腫瘍の診断には必須の検査で、このほか肝がん、乳がん、膵(すい)がんなどの悪性腫瘍、脊髄(脊椎)疾患、関節疾患などの診断にきわめて有用です。
 磁場の強さはテスラという国際単位であらわされ、数値が大きいほど短時間で高画質の画像が得られます。現在(2023年7月)のMRI検査装置では1.5テスラや3.0テスラが主流です(0.2テスラから3.0テスラまで存在)。しかし高磁場は動きに弱いとされ、呼吸や心拍動の影響で動く臓器の検査では、あえて1.5テスラが選択されることもあります。
 またMRIは、画像収集にかかわる装置のコントロールの自由度が高く、多種多様な設定が可能です。これをコントロールするソフトウェアはパルスシーケンスと呼ばれ、たくさんの種類が用意されています。目的に応じてシーケンスを使い分けることで、最適な組織間のコントラストが得られるようになり、診断が容易になります。

 MRIにおいても造影剤の併用で、血管や組織の血流の情報が得られ、組織間のコントラストもさらに明瞭になります。造影剤のなかには、たとえば肝細胞(肝臓の実質を構成する主要な細胞)の胆汁排泄能など、細胞が本来もつ機能が評価できるものもあり、これが失われた状態を検知することで、ごく初期段階のがんなども診断できるようになっています。
 従来のX線による血管造影とは違い、MRI検査では造影剤を使わずに血管の描出が可能です(MRA:MR血管撮影)。このため動脈瘤(りゅう)や動脈硬化の検査を、より負担の少ない方法でおこなうことができるようになっています。
 また従来の胆管や膵管の検査(胆管膵管造影検査)では、内視鏡検査をおこないながら胆管や膵管に造影剤を注入する必要があり(内視鏡的逆行性胆管膵管造影:ERCP)、検査時の負担の大きさと、造影剤の注入が原因で起こる急性膵炎の合併が大きな問題でした。しかしMRI検査では、造影剤を用いずに胆管や膵管の像を得ることができます(MR胆管膵管造影:MRCP)。これにより現在では、ERCPは、MRCPで鮮明な画像が得られない場合や、治療を目的とする場合などにおこなわれるのが一般的となっています。
 MRI検査は非常に有用な検査ですが、大掛かりな設備が必要で、検査がおこなえる医療施設に限りがあること、検査時間が長いことが難点です。また体内に磁性金属が存在する人やペースメーカー埋め込みを受けている人は検査ができませんので注意が必要です。

(執筆・監修:自治医科大学 教授〔臨床検査医学〕 紺野 啓)