記憶面の症状(脳器質性精神障害など) 家庭の医学

 記憶は人の精神機能の中心にある重要なものです。最近の研究成果はめざましく、その構造がずいぶんと解明されてきました。
 記憶は大きく分けると、見聞や学習による記憶(陳述的記憶)とからだを使った練習で覚えた記憶(手続き的記憶)があります。陳述的記憶には、かつて体験したことに関する記憶(エピソード記憶)と文字などを通して学習した記憶(意味記憶)があります。これらはことばによって再現することができる記憶で、いろいろなテストにより測定できます。
 いっぽう、自転車に乗れたり包丁で野菜を上手に切れたりできるのは、手続き記憶のおかげです。これらの記憶はことばによって表現できません。
 一般的にいって、認知症などによる記憶障害では、陳述的記憶のほうが手続き記憶よりも早期に障害を受けやすく、陳述的記憶のなかではエピソード記憶のほうが障害されやすいといえます。また、エピソード記憶では、最近の出来事のほうから忘れていくという特徴もあります。
 記憶のもう一つの重要な要素として、新しい出来事や知識を覚えていく記銘力があります。年をとって、もの覚えがわるくなったと感じるのは、この記銘力が減退しているのです。私たちの脳では、記銘力(短期記憶)をベースとし、くり返して入ってきたことがらを長く保持する(長期記憶)という2段階の作用により記憶が形成されています。

【参照】こころの病気:脳器質性精神障害

(執筆・監修:高知大学 名誉教授/社会医療法人北斗会 さわ病院 精神科 井上 新平)