膀胱腫瘍(膀胱がん)〔ぼうこうしゅよう(ぼうこうがん)〕 家庭の医学

 膀胱にできるがんで、中高齢の男性、特に特に染料や化学物質を扱う職業、喫煙者に多くみられます。原因は不明です。
 早期であれば内視鏡手術で対応できますが、しばしば再発します。進行すると膀胱内に大きな腫瘍を形成し周囲にも浸潤(しんじゅん)します。この場合は膀胱を摘出する必要があります。

[症状]
 症状としては血尿で発見されることが多いです。痛みなどの症状がないのに血尿が出ます。時には血のかたまりが混じることがあります。しばらくすると自然にもとに戻ることもあるので、注意が必要です。検診などの尿検査で異常を指摘され、そこから診断されることもあります。

[診断]
 診断は膀胱鏡(膀胱の内視鏡検査)でおこないます。尿検査では尿中に赤血球がみられ、時にがん細胞をみとめる場合があります。尿中のがん細胞を検査する尿細胞診検査では陽性(クラス4または5)となります。
 超音波(エコー)検査でも膀胱内に腫瘍がみえることがあります。見た目がイソギンチャクのようなフワフワした腫瘍であれば、早期がんのことが多いです。
 進行がんになると、膀胱の壁にくい込むような腫瘍が確認できます。腫瘍が入り込んでいる深さの程度は、CTやMRIの検査で判断します。


[治療]
 早期がんの場合には、尿道から内視鏡を入れて腫瘍を電気切除します(経尿道的膀胱腫瘍切除術)。切除後にしばしば再発がみられますので、定期的(3~6カ月に1回)に膀胱鏡検査をする必要があります。
 再発すれば、同じ手術を繰り返して受けなくてはなりません。何度か再発している間に、早期がんから進行がんに変化することがあり、注意が必要です。再発の予防方法としては、抗がん薬や弱毒の結核菌であるBCGを膀胱に注入する治療があります。BCGのほうが効果は高いですが、副作用(膀胱の刺激感、関節炎などの過敏反応、時にBCG菌の全身的な感染)もあります。
 進行がんの場合には、膀胱を摘出します(膀胱全摘除術)。摘出手術は開腹手術が一般的ですが、腹腔鏡手術やロボット支援手術がひろがりつつあります。摘出後の尿の出し方にはいくつかの方法があります。もっとも簡便なのは、腹部の皮膚に孔(あな)をあけてそこに尿管をつないで、尿を直接出すことです(尿管皮膚瘻〈ろう〉)。尿管皮膚瘻では、出口が狭くなる、腎臓に感染(腎盂〈じんう〉腎炎)が起こる、皮膚がただれるなどの問題があります。
 次にむずかしいのは、腸の一部をはずしてきて、片方に2本の尿管をすこし離してつなぎ、もう片方を皮膚に出してそこへ尿を導く方法です(回腸導管)。装具を使う手間はありますが、合併症がもっとも少ない方法です。
 もっともむずかしいのは、同じく腸を利用して、これを袋状に形成しいわば新しい膀胱をつくる方法です(新膀胱)。そこから尿を出す方法としては、袋を尿道につなぐ方法(自排尿型)、もしくは臍(へそ)やその近くの皮膚に孔をあけてそこから導尿する方法(導尿型)があります。

 また、進行がんであっても、内視鏡手術や膀胱の部分切除術に放射線治療や抗がん薬治療を組み合わせて、膀胱を残す手術(膀胱温存術)も可能なことがあります。これらのうちどの方法がよいかは、さまざまな条件で異なります。もし転移が起こった場合は、抗がん薬、免疫チェックポイント阻害薬の治療がおこなわれます。

(執筆・監修:東京大学大学院医学系研究科 教授〔泌尿器外科学〕 久米 春喜)
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