胸部脊髄症〔きょうぶせきずいしょう〕 家庭の医学

 背骨のうち胸椎(きょうつい)の加齢的変化により、背骨の辺縁の骨の突出(骨棘〈こつきょく〉)ができたり、背骨の関節が肥大したり、椎間板(ついかんばん)が変性し突出したりして、背骨のなかにある脊髄が圧迫されて体幹や両足のまひが生じたものが胸部脊髄症です。中年以降にみられ、女性より男性に多くみられます。
 はじめは足がしびれる程度ですが、しだいに歩きにくくなり、足の力が弱くなったり、胴体から下の感覚がにぶくなります。進行すると排尿がうまくいかなくなります。MRI(磁気共鳴画像法)検査により、胸椎部の脊髄が圧迫されてつぶれているようすが観察されます。
 胸部の脊髄症をきたす病気には脊髄腫瘍、椎間板ヘルニア、脊椎炎、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)に伴う椎体骨折、靱帯骨化症(じんたいこっかしょう)など、ほかにもいろいろなものがあります。
 進行すると治りにくい病気なので、両足がしびれたり、歩きにくくなったらすぐに脊椎専門の医師に診てもらう必要があります。進行する前に手術が必要です。

■胸部椎間板ヘルニア
 胸椎の椎間板ヘルニアによっても、胸部の脊髄症をきたします。両足がしびれたり、歩きにくくなり、進行すると高度の歩行障害や下肢の筋力低下や知覚障害、排尿障害をきたすことは胸部脊髄症と同様ですが、しばしば背部痛や胸部痛を伴ったり、急性に発症することが多い点が異なります。
 ヘルニアのある高位以下の体幹の知覚障害、下肢の深部腱反射亢進(けんはんしゃこうしん:打診による検査で反応が強くなる)、上肢の症状がないことより胸髄の異常を疑い、MRI検査により診断します。腰部脊柱(せきちゅう)管狭窄(きょうさく)症でも両足がしびれたり、歩きにくくなりますが、この場合には下肢の深部腱反射は低下したり、消失します。

[治療]
 下肢のまひや歩行障害がすこしでもある場合は、早めに手術をおこなう必要があります。手術はヘルニアを切除し、背骨の固定術をおこなうのが一般的です。

■脊髄腫瘍
 脊髄の中や周囲に発生する腫瘍は脊髄腫瘍と総称されます。脊髄は、背骨の中にある脊柱管という管の中にありますが、この脊柱管の中にできた腫瘍を脊髄腫瘍と呼ぶわけです。
 脊髄は硬膜という膜に脳脊髄液とともに包まれていますが、硬膜の中にできる腫瘍は硬膜内腫瘍と呼ばれ、これは髄内腫瘍と硬膜内髄外腫瘍とに分けられます。硬膜の外にできる腫瘍は硬膜外腫瘍と呼ばれます。
 くびや背中や腰と、できる場所により症状は異なりますが、一般にまずくびや背中、腰の痛みが出現し、しだいに手や足のまひ、歩行障害、排尿障害がみられるようになります。腫瘍の疑われる部位のMRI検査により、診断します。


[治療]
 良性の腫瘍が疑われる場合には、腫瘍をすべて取り除く手術をおこないます。硬膜外腫瘍では悪性腫瘍のこともあり、その場合には放射線治療や化学療法をおこなうこともあります。髄内腫瘍では腫瘍をすべて取り除けないことも少なくありません。
 腫瘍の種類にもよりますが、手術後も何らかの神経症状が残ることが少なくありません。

■脊椎腫瘍
 脊髄やその周囲から発生した腫瘍が脊髄腫瘍と呼ばれるのに対し、背骨に発生した腫瘍が脊椎腫瘍です。背骨から発生したものは原発性脊椎腫瘍と呼ばれ、悪性腫瘍が背骨に転移したものは転移性脊椎腫瘍と呼ばれます。
 腫瘍によりその部分の背骨は弱くなり、骨折を生じ、痛みの原因となります。頸椎、胸椎、腰椎と腫瘍のできる部位により、頸部痛や背部痛や腰痛を生じます。さらに腫瘍が脊髄の周囲にひろがり、脊髄を圧迫すると脊髄まひが進行し、手や足のしびれ、筋力低下、歩行障害などが出てきます。MRIやX線検査、CTなどで診断します。

[治療]
 原発性脊椎腫瘍で痛みがあったり、脊髄の圧迫があったりする場合には、手術をおこないます。手術は腫瘍の種類によっても異なりますが、腫瘍をすべて取り除き、背骨の固定術を追加して脊椎を安定化させます。脊椎外科専門の医師による治療が必要となります。
 転移性脊椎腫瘍では、がんの種類により治療方針が異なり、放射線治療や化学療法がおこなわれますが、疼痛(とうつう)が強く動くことができなかったり、まひが進行する場合には手術が必要となることがあります。

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