痘瘡(天然痘)〔とうそう(てんねんとう)〕 家庭の医学

 痘瘡は中世に猛威をふるいましたが、ジェンナーの研究がもとになり、よいワクチン(種痘)が開発されました。1967年にWHO(世界保健機関)が痘瘡の根絶計画を発足させ、地球規模でワクチン(種痘)接種を促進した結果、1979年には地球上から姿を消し、WHOは1980年に根絶宣言を出しました。
 その後、痘瘡は発生していませんが、バイオテロで痘瘡ウイルスが使われるかもしれないことから、感染症法の改正(2003年11月)のおりに一類感染症に追加されました。痘瘡は、痘瘡ウイルスによる重篤な感染症で飛沫(ひまつ)感染によりひろがります。潜伏期は1~2週間です。急激に高熱をもって発症し、3~4日後解熱傾向となりますが、このころから全身の皮膚や粘膜に紅斑(こうはん)が生じます。この紅斑はいっせいに水疱(すいほう)を形成し、その後、膿疱(のうほう)、痂皮(かひ:かさぶた)化と移行し、落屑(らくせつ)して治癒する特徴をもっています。膿疱の時期がいちばん重篤な時期と思われます。
 特別な治療法はありませんが、感染予防にはワクチンが有効で、日本で開発された天然痘ワクチン(乾燥細胞培養痘そう(天然痘)ワクチンLC16m8ワクチン)が国内で製造され、バイオテロ対策として備蓄されています。なお、かつて種痘を受けたことのある人は、痘瘡の感染の危険はありません。

(執筆・監修:熊本大学大学院生命科学研究部 客員教授/東京医科大学微生物学分野 兼任教授 岩田 敏)
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