内視鏡検査

 内視鏡検査は、わが国で大きく発展した検査です。内視鏡検査では、細い筒型の観察器具(内視鏡)を、生体内のいろいろな場所にある閉鎖空間(腔〈くう〉)の中(内腔)に入れ、体外から内側の表面を観察します。
 もっとも一般的なのは上部消化管の内視鏡検査です。胃カメラの別名でも知られるように、もっとも初期の内視鏡は、柔軟性のある筒の先端に小さなカメラを取り付けたもので、口から胃の内部(内腔)に挿入して写真を撮影していました(軟性胃鏡)。その後、細いガラス繊維(グラスファイバー)を多数束ねて対物と対眼レンズをつないだ内視鏡(ファイバースコープ)が開発され、細径化されたことで、食道から十二指腸までの検査が一度におこなえるようになりました。いっぽうで、大腸の検査用に大腸内視鏡も開発され、上部および下部消化管内視鏡検査を中心とする、今日の内視鏡検査の体系が確立されました。
 この時期の内視鏡検査では、まだ対眼レンズを実際にのぞいて観察していました。しかし現在では、光センサーであるCCD(電荷結合素子)を内視鏡の先端に取り付け、得られた情報をビデオプロセッサーでデジタル画像に変換してモニター上に表示する、電子スコープが用いられています。画像情報のデジタル化は、画質の向上に加え、さまざまな画像強調法や拡大内視鏡を可能とし、診断精度の向上をもたらしています。またその後、小腸内視鏡やカプセル内視鏡が実用化されたことで、それまでは観察がむずかしかった小腸の観察も可能となり、消化管において内視鏡で観察できない部位はなくなりました。現在、内視鏡の観察対象は、消化管以外にも脳神経(脳外科)、耳鼻咽喉領域、気管支、膀胱尿道、関節など多岐に及んでいます。
 ファイバースコープは先端が自由に曲がるようにつくられていますが、基本的な操作性をはじめ、反転できる角度なども年々向上を続けており、死角の減少に貢献しています。最近ではAIを利用した診断支援も実用化され、病変の見逃しがさらに減ることが期待されています。またファイバーの細径化や軟性化、鼻からの挿入が可能な経鼻内視鏡の開発など、検査を受ける患者さんの身体的負担を軽減する努力も続けられています。
 内視鏡では、観察以外にも、胃液や出血した血液を吸引するといった基本的な処置のほか、色素や薬剤の散布、組織の生検(組織の小片を摘み取って顕微鏡で観察する検査:バイオプシー)あるいは切除、出血に対する止血操作などの各種の処置もおこなえます。このため、ポリープや小さながんなどは検査をしながら摘出することも可能です。


 近年、内視鏡は、治療を目的に使われることも多くなりました。皮膚に小さな穴をあけ、内視鏡とともにメスや鉗子(かんし)を腹腔内や胸腔内、あるいは皮下に挿入し、内視鏡で観察しながら、がんなどを切除する手術は、内視鏡下手術(鏡視下手術、内視鏡的切除術)と呼ばれます。患者さんの肉体的負担が少ない術式として、内視鏡下手術は多くの病気において第一選択の術式となっています。
 最近では、内視鏡下手術支援ロボットを用いた、ロボット支援手術もおこなわれています。手術は、おなかなどにあけた小さな穴から、手術器具を取り付けたロボットアームと内視鏡を挿入し、操作ボックスの中で、医師が内視鏡画像を見ながらロボットを操作しておこないます。ロボット支援手術では、手振れのない、手術器具の自然な動きが可能で、またロボットアームにしかできない動きも可能なため、狭い空間でも、込み入った動作をスムーズにおこなうことができます。さらに3次元の立体画像を、必要に応じて拡大しながら観察して手術をおこなえるため、これまでよりも確実な手術がおこなえる可能性があるなどの利点もあります。
 内視鏡検査では、観察部位やそこまでの到達経路に障害物が存在すると、観察ができなかったり、見えない部分(死角)がふえて見逃しにつながったりします。このため、食べ物や便が障害物となる消化管の検査では、検査前にこれらを処理しておく必要があります(前処置)。上部消化管では検査前一晩の絶食が、下部消化管では下剤の内服による便の完全な排泄が必要です。また検査直前には、内視鏡挿入に伴う苦痛を抑制するため、咽頭、鼻腔などを麻酔するのが普通です。よって検査後も、誤嚥(ごえん:飲み込んだものが誤って気管に入ること)を防ぐため、一定時間は飲食を差し控える必要があります。場合によっては鎮静剤の注射をして検査をおこなうこともありますが、この場合は呼吸が抑制される可能性があるため、呼吸状態を十分に監視しながらおこないます。

(執筆・監修:自治医科大学 教授〔臨床検査医学〕 紺野 啓)

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