アイゼンメンゲル症候群〔あいぜんめんげるしょうこうぐん〕

 肺への血流量が多くなる病気では、肺小動脈の血管の壁が厚くなり、内腔(ないくう)を閉塞するようになり、肺高血圧となります。さらに進行すると、からだの血圧と同じかさらにそれを上回る高度の肺高血圧となり、左右短絡血流(動脈血が静脈血側に入り、肺血流を増加させている状態)が右左短絡血流(肺へ行く静脈血の一部が全身へ行く動脈血に入り込む)となるため、チアノーゼが出現します。この状態で短絡部分をふさぐと、心臓から肺へ行く血液は、肺高血圧のために肺には進めず、短絡部分がふさがれたために動脈血側への逃げ場も失われます。
 つまり、全身から心臓にかえってきた血液が先に進まなくなり、急激に心不全が増悪(ぞうあく)します。そのため、アイゼンメンゲル症候群になった場合は、手術をしてはいけません。小児期には症状は軽く、通常の日常生活をおくれます。
 年長になるにつれて、チアノーゼ、運動時の呼吸困難が強くなり、血たん、心不全、不整脈、脳血管障害が出現します。また、全身麻酔下の手術の危険が高くなります。女性の妊娠や出産は死亡率が高くなるため、妊娠を避けることが必要です。
 治療は、心不全に対して利尿薬や強心薬を用いたり、肺高血圧に対する薬物治療や酸素吸入をしますが、しだいに進行します。しかし、近年、新しい肺血管拡張薬による積極的な治療が試みられ、症状の改善や外科治療が可能になった症例が報告されています。
 根本的治療は肺移植、心肺同時移植ですが、現在の日本の医療事情ではきわめてむずかしいのが実情です。

(執筆・監修:自治医科大学 名誉教授/茨城福祉医療センター 小児科 部長 市橋 光
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