たん

 肺や気管支から粘液が分泌されますが、通常は気管支の表面に密生している線毛によってのどのほうへ運ばれるときにふたたび体内に吸収されます。しかし、気管支や肺の病気になると分泌液が多量になったり吸収がわるくなったりして、結果として過剰な液体成分が気管支の中に貯留し、やがて体外へ排出され、たんとなります。
 たんは量や色、においなどで区別しますが、病気の状態と関係のあるたんの色は特に重要です。漿液(しょうえき)性(さらさらして透明な液)、粘液性(粘っこくやや白色な液)、膿(のう)性(黄色や緑色などでうみのような液)、血性(血液がまじっている液)に分類されます。漿液性たんはぜんそく、粘液性たんは急性気管支炎や慢性気管支炎で感染が軽い場合、膿性たんは気管支炎の悪化、肺炎肺化膿症気管支拡張症などでみられます。血たんは、肺がん肺結核、気管支拡張症、肺梗塞などでみられます。
 また、たんは呼吸器の病気だけではなく、心臓がわるくなると(心不全)、肺のなかに血管から液が漏出(ろうしゅつ)して泡のようなピンク色のたんが多量に出てくることがありますので注意が必要です。
 たんの出てくるのが急にはじまったのか、以前から慢性的にあったのかも病気を見分けるヒントとなります。急性に起こったのであれば、緊急の治療が必要なぜんそく、心不全、肺炎などの病気を考え、胸部X線検査などをします。慢性に経過している場合には、胸部X線検査とともに、たんの細菌検査やがん細胞の有無を調べる病理検査が必要となります。
 また、高齢者や喫煙者の場合にはたんの性状にかかわらず、肺がんの可能性を常に念頭に置くことも重要です。

(執筆・監修:順天堂大学医学部附属順天堂医院 院長/順天堂大学大学院医学研究科 教授〔呼吸器内科学〕 髙橋 和久

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