心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療として薬物療法や心理療法が行われるが、離脱率の高さが課題となっている。反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法は、大うつ病性障害と強迫性障害への有効性が示されており、PTSDに対する新たな治療選択肢として注目されている。米・Palo Alto UniversityのRandi Brown氏らは、成人のPTSDに対するrTMS療法とシャム刺激の有効性と安全性を評価したランダム化比較試験(RCT)13件を対象にレビューした結果を、Cochrane Database Syst Rev2024; 8: CD015040)に報告した。(関連記事「経頭蓋磁気刺激でアルツハイマー病が改善」)

rTMS単独8件、心理療法との併用4件、補助療法1件をレビュー

 苦痛や障害を伴う症状を特徴とするPTSD、世界の成人における生涯有病率は3.9%と推定されている。既存治療には離脱率が高いという課題があり、多くの患者が長期にわたり症状に悩まされている。PTSDにはニューロンネットワーク結合パターンの変化の関与が指摘されており、皮質脳組織に電流を誘導する非侵襲的な治療法であるrTMS療法は、既存治療不耐例においてPTSDの寛解率を改善させる治療選択肢として注目されている。

 Brown氏らは今回、成人PTSD患者に対するrTMS療法の有効性と安全性を評価するため、Cochrane Common Mental Disorders Controlled Trials Register、CENTRAL、MEDLINE、EMBASEなどのデータベースおよび臨床試験登録2件に2023年1月までに収載された研究を検索。最新のエビデンスに基づくレビューを実施した。

 組み入れ基準は、①退役軍人を含むあらゆる治療環境における成人のPTSDに対するrTMSとシャム刺激の有効性と安全性を評価した、②少なくとも5回のrTMS治療セッションを採用し、能動的条件とシャム条件の両方を用いた、③薬物療法または心理療法とrTMS療法による併用介入を介入群と対照群の両方で行った-RCTとした。2人の査読者が独立してデータを抽出し、コクラン基準に従ってバイアスリスクを評価。主要評価項目は治療直後のPTSD重症度および治療中の重篤な有害事象、副次評価項目はPTSD寛解、PTSD反応、治療後2回の追跡時点におけるPTSD重症度、脱落、治療直後の抑うつと不安の重症度とした。

 RCT 13件(発表済み12件、未発表の論文1件)・577例をレビューの対象とした。内訳は、rTMS単独療法が8件、rTMS療法とエビデンスに基づく心理療法の併用が4件、補助治療としてのrTMS療法が1件だった。米国で実施されたものが5件で、白人男性の退役軍人を対象とした試験が多かった。

有効性に差はなしも有害事象は極めて低率

 検討の結果、シャム刺激とrTMS療法で治療直後のPTSD重症度にほとんど差はなかった〔標準化平均差(SMD)-0.14、95%CI -0.54~0.27、3件・99例、エビデンスの確実性:中程度〕。中程度の効果サイズの差を検出するにはサンプルサイズが不足していたため、エビデンスの確実性を1段階引き下げた。バイアスリスクに関しては、1件は「低い」、残りの2件は「若干懸念される」と判定した。6件・252例を対象とした重症度のベースラインからの変化量に関する感度分析でも、主解析と同様の結果が示された。ただし、バイアスリスクが高い2件を含め、研究間で有効性に有意な異質性が認められた。

 報告された重篤な有害事象の発生率は低く、7件であった(rTMS療法6件、シャム刺激1件)。重篤な有害事象に対するrTMS療法の効果については、エビデンスの確実性が低かった(rTMS療法23/1,000 vs. シャム刺激4/1,000、オッズ比5.26、95%CI 0.26~107.81、5件・251例、エビデンスの確実性:非常に低い)。バイアスリスクで1段階、不正確さで2段階、エビデンスの確実性を引き下げた。5件中4件はバイアスリスクが高く、5件目はバイアスについて「若干の懸念がある」と評価した。治療直後のPTSD寛解については、報告したRCTがなかったため評価できなかった。

 Brown氏らは、研究の限界として①男性退役軍人または女性民間人を対象としたRCTが多い、うつ病合併例の割合が異なるなど、参加者の背景にかなりばらつきがある、②治療デザインおよび刺激パラメータ(セッション数・期間、刺激の強度・頻度、刺激部位)など、プロトコルにも違いがある-を挙げ、「これらの相違は、特に患者因子との交互作用を考慮する場合、有効性に影響を及ぼす可能性がある」と説明。その上で、「中程度の確実性のエビデンスに基づき、成人PTSD患者に対する治療直後の有効性にrTMS療法とシャム刺激でほとんど差がないことが示唆された。重篤な有害事象の発生率は両者とも1%未満と極めて低率だったが、エビデンスの確実性が非常に低いためrTMS療法が重篤な有害事象リスクを上昇させるかどうかは不明である」と結論。「治療後のPTSD寛解、治療反応、重症度に関するエビデンスは十分でない。これらについてさらに研究を進めることで、rTMS療法の臨床使用に有益な情報を提供できるだろう」と付言している。

関根雄人