日本癌治療学会は9月10日、『制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版』(以下、GL第3版)刊行前後における制吐薬の処方動向に関する初回調査結果を公式サイトに公表した。GL第3版では、高度催吐性リスク抗がん薬の標準治療として4剤併用療法〔セロトニン(5-HT3)受容体拮抗薬+デキサメタゾン+ニューロキニン(NK)1受容体拮抗薬+オランザピン〕が挙げられたが、刊行時点での遵守率は乳腺領域以外で15.7%で、NK1受容体拮抗薬を含む3剤併用療法(オランザピン以外は4剤併用療法と同じ)の72.3%と合わせると90%に上った。同学会は、GL第2版(2015年)の順守率が高いものの、GL第3版刊行前から新しいエビデンスに基づいて4剤併用療法も導入されているなどの特徴を挙げた。
7学会の会員から1,276件の回答
『制吐薬適正使用ガイドライン』の初版刊行は2010年で、第2版を一部改訂したver2.2のweb公開を経て昨年(2023年)、第3版が刊行された。
日本癌治療学会制吐薬適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループ(以下、改訂WG)は、GL第3版刊行前後における診療動向の変化を調査する目的で、日本臨床腫瘍学会、日本サイコオンコロジー学会、日本医療薬学会、日本がんサポーティブケア学会、日本がん看護学会、日本放射線腫瘍学会の協力の下、昨年10月2〜18日に初回調査を実施し今回、初めて結果を公表した。
回答は7学会の会員から1,276件得られた〔医師423件(33.2%)、薬剤師750件(58.8%)、看護師99件(7.8%)、その他4件(0.3%)〕。主な診療科は、消化器外科(99件)、腫瘍内科(76件)、婦人科(62件)、乳腺科(50件)、消化器内科(30件)などで、医療機関の属性はがんセンターが38.4%、大学病院が32.2%、その他が29.4%だった。
乳腺領域の4剤併用療法は16.8%と2番目に多い
乳腺領域以外で高度催吐性リスク抗がん薬を使用した際の悪心・嘔吐予防療法について(患者因子などで使い分けている場合は使用頻度が最も高い予防療法)聞いた。その結果、NK1受容体拮抗薬を含む3剤併用療法が72.3%、4剤併用療法が15.7%、高度催吐性リスク抗がん薬は使用していないが4.6%、2剤併用療法(5-HT3受容体拮抗薬+デキサメタゾン)が3.6%などの回答があった。結果について改訂WGは、GL第2版の遵守率が高いものの、GL第3版刊行前から新しいエビデンスに基づいて4剤併用療法も導入されているなどのコメントを寄せた。
一方、乳腺領域では多い順に、NK1受容体拮抗薬を含む3剤併用療法が53.0%、高度催吐性リスク抗がん薬は使用していないが21.1%、4剤併用療法が16.8%、その他が5.6%、2剤併用療法が1.9%などだった。高度催吐性リスク抗がん薬を使用していない割合がやや高く、乳腺領域においても予防的制吐療法に関するGL遵守率は高かった。
改訂WGによると、GL第2版など国内外のGLにおいてAC療法(ドキソルビシン+シクロホスファミド)の催吐性リスクが中等度(標準療法はNK1受容体拮抗薬を含まない2剤併用療法)から高度に変更された点を反映した結果ではないかとしている。
カルボプラチンを含まない中等度催吐性リスク抗がん薬における3剤併用療法は22.9%と妥当
カルボプラチンを含む中等度催吐性リスク抗がん薬使用時は、NK1受容体拮抗薬を含む3剤併用療法を施行するが今回、使用率が66.6%と高率だった点を踏まえ、改訂WGはGL第2版の部分改訂の内容が浸透している実情がうかがわれた結果としている。一方、2剤併用療法の割合は17.2%で、全例への3剤併用療法施行に疑問の声が少なからずあることが示唆された。
カルボプラチンを含まない中等度催吐性リスク抗がん薬はオキサリプラチンを含むレジメンであるため、NK1受容体拮抗薬を含む3剤併用療法の割合が約4分の1(22.9%)という結果は「妥当と考えられる」としている。
軽度催吐性リスク抗がん薬については使用に伴う悪心・嘔吐の発生頻度が低いため、各施設のデフォルトを見直すことなく決められた2剤併用療法がそのまま使用されていることがうかがえた(使用率24.4%)。
なお、今回の調査はGL刊行に伴う診療動向変化の調査を目的としており、年内をめどに2回目の調査を実施する予定であるという。
(編集部・田上玲子)