人工膝関節全置換術(TKA)は変形性膝関節症(膝OA)に対する有効性が高いものの、術後の疼痛や違和感に悩まされる患者は一定数存在し、手術時の至適アライメントをめぐっては議論がある。九州大学大学院整形外科学教室の小西俊己氏らは、個人で異なる生来の膝アライメントを推測するためのCoronal Plane Alignment of the Knee(CPAK)分類に着目し、患者報告アウトカム尺度(PROMs)との関連について検討する後ろ向き研究を実施。TKA後の疼痛や違和感の予測因子を明らかにしたと、Bone Joint J(2024; 106-B: 1059-1066)に発表した。(関連記事「術後2週時の『ひきつる痛み』は遷延痛のサイン」)
膝OAに対するTKA施行患者231例284膝が対象
TKAは術後20年間の非再手術生存率が約96%と高い一方で、患者満足度は約80%にとどまる。従来は膝関節への荷重バランスを取るため、股関節-膝関節-足首が一直線(ニュートラルアライメント)になることを目標とするメカニカルアライメント法が主流だった。しかし、軟部組織のバランスが崩れる可能性が指摘され、患者固有の解剖学的アライメントを再現するキネマティックアライメント法が施行されるケースもあり、臨床結果を示す報告は一貫していない。
こうした中、Samuel J. MacDessi氏らによってCPAK分類が提唱された。X線画像に基づき計測した脚の内外反(aHKA)と膝関節面の傾斜(JLO)の値で9タイプ(Ⅰ~Ⅸ型)に分ける分類法で(Bone Joint J 2021; 103-B: 329-337)、患者ごとに異なる生来の膝アライメントが推測できる。
小西氏らは今回、TKA前後のCPAK分類の変化などが疼痛や違和感といったPROMsに及ぼす影響について検討した。
対象は、2013年9月~19年6月に九州大学病院で膝OAに対する初回TKAを受け、質問票への回答が得られた患者231例284膝(平均年齢74.0±8.0歳、女性198例238膝)。疼痛や患者満足度、QOLなどPROMsの評価にはKnee Society Score 2011(KSS 2011:高値ほど良好)、Knee injury and Osteoarthritis Outcome Score-12(KOOS-12:高値ほど良好)、およびForgotten Joint Score-12(FJS-12:高値ほど良好)を使用した。
CPAK分類はaHKA(内反:-2°未満、垂直:-2~2°、外反:2°超)とJLO(内方傾斜:177°未満、水平:177~183°、外方傾斜:183°超)の組み合わせにより、Ⅰ型:内反かつ内方傾斜、Ⅱ型:垂直かつ内方傾斜、Ⅲ型:外反かつ内方傾斜、Ⅳ型:内反かつ水平、Ⅴ型:垂直かつ水平、Ⅵ型:外反かつ水平、Ⅶ型:内反かつ外方傾斜、Ⅷ型:垂直かつ外方傾斜、Ⅸ型:外反かつ外方傾斜-とした。
術後JLO外方傾斜、術前後のaHKA変化が負の予測因子
CPAK分類の内訳は、Ⅰ型が最も多く(155膝、55%)、次いでⅣ型(45膝、16%)、Ⅱ型(38膝、13%)の順だった。TKA後はⅤ型が最も多く(73膝、26%)、次いでⅡ型およびⅣ型(ともに45膝、16%)、Ⅵ型(39膝、14%)の順だった。
多変量回帰分析の結果、KSS 2011における負の予測因子として、女性、術後JLO外方傾斜が抽出された(順にP=0.005、P<0.001)。KOOS-12では、術後JLO外方傾斜、術前後のaHKA変化が抽出された(順にP=0.010、P=0.043)。FJS-12では、女性、Persona PS、術前後のaHKA変化が抽出された(順にP=0.003、P=0.006、P=0.005)。
術前後にaHKAの変化がなく、術後のJLO外方傾斜が回避できた場合、術後のCPAK分類Ⅴ型は他の全タイプと比べKSS 2011、KOOS-12、FJS-12の平均スコアがいずれも有意に高値(良好)だった(順にP=0.030、P=0.005、P=0.019)。
以上から、小西氏らは「膝OAに対する初回TKA後のPROMs低下の予測因子として、術前後のaHKAの変化と術後のJLO外方傾斜を同定した。これらの因子の回避によりPROMsが約10%改善した」と結論。「CPAK分類に基づき治療戦略を立てることで、患者満足度が高まると考えられる」と付言している。
(編集部・小暮秀和)