東北大学・スマート・エイジング学際重点研究センターの品田貴光氏らは、天然還元水(活性水素水)が認知機能に及ぼす影響を検討するランダム化比較試験(RCT)の結果をHeliyon(2024; 10: e38505)に報告。「天然還元水を6カ月間、毎日1L飲んだ高齢者群では、水道水を飲んだ群に比べ注意機能や短期記憶(ワーキングメモリー)に有意な改善が見られた」と述べている。
活性水素による酸化抑制作用
天然還元水とは活性水素(水素ラジカル)を含有する水であり、自然からの採水可能な場所は世界的にも限られている。ドイツのノルデナウの水やメキシコのトラコテの水が有名だが、日本では大分県日田市の地下深くから採水される水が「日田天領水」として市販されている。
天然還元水は水素ラジカルを含むことから、酸化抑制作用や抗糖尿病作用が報告されている。がんや糖尿病、心血管疾患、呼吸器疾患、免疫疾患など、酸化ストレスとの関連が指摘される疾患は少なくない。酸素消費量の多い脳は活性酸素種(ROS)に対して特に脆弱で、水素と認知機能との関係も検討されており、水素水が酸化ダメージや記憶障害を軽減したというマウスを使った試験の結果も報告されている(Curr Alzheimer Res 2018; 15: 482-492)。
ラベルなしの日田天領水/水道水を毎日配達
品田氏らは今回、地域の健康な高齢者を募集し、6カ月にわたるRCTを実施した。参加基準を満たした79例を天然還元水群(介入群、39例)または水道水群(対照群、40例)にランダムに割り付けた。参加者にはラベルを貼っていない1L入りのボトルを毎日届けた。
ベースラインと6カ月後に認知機能検査〔Mini-Mental State Examination(MMSE)、Trail Making Test(TMT)、Digit Span(DS)、Verbal fluency test(VFT)〕と心理的機能検査〔Profile of Mood States 2 (POMS2)、Perceived Stress Scale(PSS)、Subjective Happiness Scale(SHS)〕を実施し、その変化を検討した。
ベースラインの平均年齢(天然還元水群68.66歳 vs. 水道水群68.89歳)、教育年数(13.39年 vs. 14.22年)、各種認知機能検査や心理的機能検査の所見に両群で差はなかった。天然還元水群の38例(女性26例)、水道水群の37例(女性28例)が6カ月の試験を完遂し、先述の検査所見が得られた。
検討の結果、天然還元水群では注意機能を評価する検査であるTMT-A(数字を順番に並べる作業)およびワーキングメモリーの評価尺度であるDS-F(読み上げた数字を順番に復唱する課題)の結果が、効果量はそれほど大きくないもののそれぞれ有意に改善した(TMT-A :P<0.01、Cohen's d = 0.46、DS-F:P=0.04、Cohen's d = 0.34)。
交絡因子や血液所見の情報が欠落
以上の結果を踏まえ、品田氏らは「天然還元水の摂取を継続することで、健康な高齢者の認知機能のうち、注意機能と短期記憶が有意に改善した」と結論。
ただし、①試験のために配達した水以外の水分の摂取量や種類を把握していない、②食事や運動、アルコール摂取や喫煙、睡眠習慣など、交絡となりうる因子の情報を集めていない、③水摂取の影響を認知機能検査でのみ評価したが、血液検査によるバイオマーカーの変化は調べていない―点を試験の限界として挙げている。
(医学ライター・木本 治)