身体不活動は健康にさまざまな悪影響を及ぼし、全死亡や心血管疾患(CVD)、糖尿病、肥満のリスク上昇との関連が報告されている。これまで、成人に対する身体活動の促進を目的とした多くの介入研究が行われているが、全体的な有効性の評価は限られている。筑波大学大学院人間総合科学学術院人間総合科学研究群スポーツ医学学位プログラムの万佳偉氏らは、健康な成人向けの身体活動促進介入の効果、介入要素を評価・検討した研究を対象にシステマチックレビューおよびメタ解析を実施。その結果、介入による運動量の増加はわずかであり全体的な効果は小さかったと、Behav Sci2024; 14: 1224)に発表した。(関連記事「毎日10分の軽い運動で死亡、がんリスク低下」「仕事における身体活動強度、48年で1割低下」)

国内外の研究116件が対象

 世界保健機関(WHO)は、成人における1週間当たりの身体活動について中等度であれば150分、高強度であれば75分、またはそれに相当する運動を行うことを推奨している。しかし、2022年の研究では世界の成人の約3分の1(18億人)が、2023年の別の研究では米国の18~44歳の47.0%、45~64歳の59.8%が、推奨される身体活動レベルを満たしていないことが報告されている。

 これまで、社会の生産性や発展に重要な労働人口の多くを占める若年~中年成人を対象に身体活動を促進する介入研究が実施されてきたが、介入措置が身体活動レベルに及ぼす影響についての包括的なエビデンスは不足している。そこで万氏らは、健康成人に対する身体活動促進介入の有効性を検証するとともに、16分野93項目に分類された行動変容テクニック(Behavior Change Technique;BCT、Ann Behav Med 2013; 46: 81-95)を用いて各介入要素の有効性を検討した。

 同氏らは、2024年5月31日までにPubMedおよび医中誌Webに収載された健康な成人(18歳以上65歳未満)を対象とした運動または身体活動介入に関するランダム化比較試験(RCT)を検索。抽出された研究116件を対象にメタ解析を行い、全体的な介入効果を評価した。さらに、メタ回帰分析を用いて介入要素の有効性について、①介入群で特定された介入要素を評価、②対照群になく介入群に使用された介入要素のみを評価-の2つの方法で検討した。

 主解析では、身体活動の測定結果〔中等度および高強度身体活動(MVPA)、総身体活動、歩行と定義〕に対する介入効果を評価。サブグループ解析では、各身体活動結果(MVPA、総身体活動、歩行、坐位行動の減少、運動行動)と余暇および仕事関連の身体活動結果を評価し、得られた結果を感度分析で再検証した。

「行動目標の見直し」が介入要素として有効

 解析の結果、身体活動測定結果に対する介入効果の標準化平均差(SMD)は0.35(95%CI 0.19~0.50、P<0.001)と有意差が認められた感度分析でも有意差が示されたが、改善幅は小さかった(SMD 0.19、95%CI 0.13~0.25、P<0.001)。

 個別の介入効果を見ると、総身体活動(同0.40、0.17~0.61、P<0.001)、歩行(同0.47、0.21~0.74、P<0.001)、坐位行動の減少(同0.39、0.09~0.68、P=0.013)、運動行動(同0.91、0.13~1.69、P=0.029)との有意な関連が認められたが、感度分析でも有意差が維持されたのは総身体活動のみだった(同0.32、0.11~0.53、P=0.004)。

 メタ回帰分析の結果、身体活動測定結果の介入要素として方法①、②ともに、BCTの「行動目標の見直し」と有意な正の効果を示した(順にβ=1.0、P=0.012、β=0.7、P=0.048)。感度分析では方法①でのみ有意な正の効果を示した(β=1.1、P=0.012)。

 方法②では、「ソーシャルサポート(感情的)」が有意な正の効果を示した(β=1.0、P=0.041)一方、「ソーシャルサポート(実践的)」は有意な負の効果を示した(β=-0.9、P=0.028、感度分析β=-0.8、P=0.042)。

 サブグループ解析および感度分析では、「行動に対するフィードバック」(方法①β=0.8、P=0.014、感度分析β=1.0、P=0.002)、「行動のセルフモニタリング」(方法②β=0.6、P=0.021、感度分析β=0.8、P=0.033)、「習慣形成」(方法①感度分析β=0.6、P=0.021、方法②感度分析β=0.7、P=0.012)が有意な正の効果を示した「問題解決」(方法①β=-0.7、P=0.039、感度分析β=-0.9、P=0.005)、「促し/きっかけ」(方法①感度分析β=-0.5、P=0.038、方法②感度分析β=-0.5、P=0.040)は有意な負の効果を示した

 以上から、万氏らは「健康な若年~中年の成人に対する身体活動促進の介入効果はわずかであったものの、『行動目標の見直し』が有効な要素となることが明らかになった」と結論。「今後は『行動目標の見直し』に加え、『行動に対するフィードバック』や『問題解決』など潜在的な有効/阻害要素も考慮した上で、身体活動の促進を目的としたプログラムを構築する必要がある」と付言している。

(編集部・小暮秀和)